最近、韓国に入国した脱北者の証言により、北朝鮮国内には地下信徒――当局に存在がバレないよう隠れてキリスト教を信仰する人々が存在すると、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じている。

RFAにこの情報を伝えたのは、件の脱北者から話を聞いた韓国のNGO北朝鮮キリスト教総連合会のイム・チャンホ牧師だ。イム牧師がRFAに伝えた内容は、概ね次のとおりだ。

「その脱北者は地下信徒の実態を、保衛部(秘密警察)が一般住民を集めて行う思想教育を通じて知ったそうです。思想教育の場で保衛部は、宗教や迷信におぼれては絶対にいけない、韓国の宗教家と接触する者はスパイであり、国家に対する反逆罪に当たる。実際にどの地域に住んでいた誰それは、宗教におぼれたスパイだった。その人脈を辿ると次々にスパイ(地下信徒)の存在が浮上し、一網打尽にした」

これは、きわめて重要な情報である。なぜなら、北朝鮮は国内でキリスト教徒を弾圧していると指摘されて久しいが、そのことを当局自らが認めたに等しいからだ。

(参考記事:実はクリスチャンの家系なのに…キリスト教徒を処刑してきた北朝鮮の独裁者たち])

たとえば、米国務省が5月29日に発表した2017年版の「信仰の自由に関する国際報告書」は、北朝鮮では2017年の1年間に、宗教活動をしたという理由から119名が処刑され、770名が収監されたと指摘。また、宗教を理由に87名が失踪し、48名が強制移住させられ、44名は身体的に負傷したとしている。

北朝鮮当局は、信仰を持つ人にどのような虐待を加えているのか。かつて北朝鮮に拘束されたロバート・パク氏は、当局から「性拷問」を受けたと述べている。同氏の説明によれば、その目的も彼の信仰をくじくことにあったようだ。

(参考記事:「北朝鮮で自殺誘導目的の性拷問を受けた」米人権運動家])

また、デイリーNKは昨年、2001年の脱北後にキリスト教に入信し、中国を拠点に北朝鮮の地下教会に対する支援活動を行った経験のあるキム・チュンソンさんにインタビューを行った。そこでキムさんは、次のように証言している。

「(秘密警察の)保衛部は逮捕した信者を眠らせず、5日間ぶっ通しで暴力を振るいます。目撃した人の話では、冷凍拷問というのがあるそうです。服を全部脱がせて冷凍室に閉じ込めるというものですが、ほとんどの人が低体温症で死んでしまうそうです」

では、北朝鮮はなぜ、そこまでしてキリスト教を弾圧するのか。これについて、キムさんはこう語っている。

「北朝鮮は人々を、金日成主席、金正日総書記の独裁体制とチュチェ思想だけが生きる道であると洗脳しています。しかし、聖書には『真理』という言葉があります。それは『光』のようなものですが、暗闇に閉ざされた北朝鮮にこの光がさせば、金氏一家がいかにして人民を欺いてきたのか明らかになるでしょう。北朝鮮の政権を崩壊させる重要な要素の一つが宗教の力だと思います。キリスト教が北朝鮮に広まれば、政権はどこかのタイミングで崩壊するでしょう」

仮に、彼女の言っていることが正しいとするならば、金正恩党委員長は、自らの体制の本質的な脆弱さを、正確に理解しているということでもあるだろう。

(参考記事:北朝鮮の刑務所で「フォアグラ拷問」が行われている])

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記

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