北朝鮮の首都・平壌には近年、倉田(チャンジョン)通り、未来科学者通り、黎明(リョミョン)通りといったタワーマンション団地が造成された。いずれも金正恩党委員長の肝いりのプロジェクトで、「金正恩時代」を象徴するランドマークとなっている。
しかし慢性的な経済難に加え、核兵器開発を巡る経済制裁が強まる中で建設されたタワマンには、かねてから様々な問題点が指摘されてきた。そもそも北朝鮮の建築物は、建築資材の盗難や横流しのために手抜き工事が横行し、安全性の面で極めて重大な欠陥があるとされている。
(参考記事:金正恩氏、日本を超えるタワーマンション建設…でもトイレ最悪で死者続出)そうした実態について、デイリーNKジャパンは最近、約2年前に脱北した元朝鮮人民軍(北朝鮮軍)兵士から話を聞くことができた。この元兵士は、未来科学者通りの建設に動員された経験があるという。
「未来科学者通りは金正恩が自ら旗を振った事業でもあり、当初は安全管理についても関係当局から厳しく指導されていました。しかし、現場に供給されているはずの資材が足りないといったことが、次第に増えました。現場の監督には、その問題を追及する権限がありません。横流しは、もっと上の方(上層部)がからんでいたのでしょう。しかも、どんどん工期が迫ってくる。セメントと砂の混合比率や鉄筋の使用量が、上層階に行くほどいい加減になっていきました。北朝鮮で地震はほとんど起きませんが、いずれ何かの拍子に、建物がぜんぶ崩壊してもおかしくありません」
またこの元兵士によれば、現場では兵士や労働者の墜落事故が頻発したという。
(参考記事:金正恩氏が公開「7000人死亡」リゾートの現場写真)人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面
平壌では2014年、これと同様の問題が原因となり、完成したばかりのマンションが崩壊。500人が犠牲になる大惨事があった。北朝鮮当局は従来、こうした事故を徹底して隠ぺいするが、このときは犠牲者の多くが朝鮮労働党中央委員会の職員家族だったこともあって、やむをえず公表している。
(参考記事:「手足が散乱」の修羅場で金正恩氏が驚きの行動…北朝鮮「マンション崩壊」事故)そのため北朝鮮国民の間では、タワマンへの入居を敬遠する雰囲気が強いとも言われる。
元兵士の証言に基づけば、タワマン群は上層階に行くほど、安全性が脆弱になっているようだ。建物の巨大な重量を支える中・下層は比較的、堅牢なのだろうか。だとすれば、ただちに建物が崩壊することはないのかもしれない。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面それでも元兵士の言うとおり、いずれとんでもない事故が起こらないとも限らない。人命にかかわることでもあり、ここは制裁を脇に置いて、海外の技術者がタワマンの安全性を検証する道は開けないものだろうか。
高英起(コウ・ヨンギ)
1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 、 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 、 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。