「9月平壌共同宣言」を読む(4)

北朝鮮の金正恩党委員長と韓国の文在寅大統領が19日に署名・発表した「9月平壌共同宣言」では、南北が今後、多様な分野での協力と交流を積極的に推進するとしている。具体的には、文化および芸術分野の交流をより増進させるとともに、2020年の東京オリンピックをはじめとする国際競技に共同で積極的に進出。2032年の夏季オリンピックの南北共同開催を誘致するため協力するとしている。

南北は今年2月の平昌冬季オリンピックに際しても、こうした形の協力・交流を行った。そこで目立っていたのが、北朝鮮の「美女応援団」だ。

秘密パーティーで辛い目に

共同宣言が順調に履行されていくならば、美女応援団が韓国はじめ海外に派遣される回数は確実に増えるだろう。そこで心配になるのが、帰国後の彼女たちを悩ませる「水抜き」と呼ばれる責め苦だ。

北朝鮮において美人であることは、社会を生き抜く武器となることもあるが、権力者に人生を蹂躙されるリスクを引き寄せる要素でもある。

(参考記事:「あまり美人に育たないで」北朝鮮の親たちが娘の将来を案じる理由

「水抜き」もまた、そのようなリスクのひとつと言えるだろう。

韓国紙・東亜日報は、世界北朝鮮研究センターの安燦一(アン・チャンイル)所長のコメントを引用し、平昌に派遣された美女応援団が北朝鮮に帰国後、ホテルに缶詰にされ、「水抜き」をされたと報じた。安氏によると、「水抜き」とは韓国滞在中に接した社会の雰囲気と文化を洗い流す思想教育だ。

応援団員らは「水抜き」を通じて、韓国で見聞きしたことを口外してはならないと言われているはずだ。なぜなら、金正恩党委員長は韓流の流入を非常に恐れているからだ。時には韓流の動画ファイルを保有していたという容疑だけで、女子大生を拷問させ、悲惨な末路に追い込むほどだ。

(参考記事:北朝鮮の女子大生が拷問に耐えきれず選んだ道とは…

ちなみに、美女応援団のメンバーを多く輩出しているのは、金星学院というエリート校だ。美女応援団の選抜条件は厳しい。デイリーNKの内部情報筋は、その実態について次のように語っている。

「美人でなければならず、身長が165センチ以下ではダメ。脱北した者が身内にいてはダメで、出身成分(身分)も厳しく見られるが、メンバーは大多数がエリート校である金星学院から選ばれるので、この点は問題ないだろう。しかし決め手は財力だ。選考書類を作る党の担当者に払うワイロの額で、最終的な当落が決まる」

しかし、金星学院の女学生たちは、超が付くほどのエリートではない。金正恩氏の妻・李雪主(リ・ソルチュ)氏のように、庶民的な家庭の出身者もいる。それに、金星学院の女学生たちが元NBA選手のロッドマン氏の訪朝時に秘密パーティーに動員され、そこで辛い目に遭わされたとの情報もある。本物のエリートならば、そのような目に遭わされることはない。

(参考記事:北朝鮮「秘密パーティーのコンパニオン」に動員される女学生たちの涙

「水抜き」作業は、北朝鮮女性の心の自由を奪う明らかな人権侵害だ。南北交流の裏でそのような行為が行われていることを、韓国社会は知っておくべきだろう。

高英起(コウ・ヨンギ)

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1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記