18~20日、今年3回目となる南北首脳会談が、北朝鮮の首都・平壌で行われる。韓国の文在寅大統領をホストとして迎える金正恩党委員長は、これまで以上に自信に満ちた態度で振る舞うのではなかろうか。年長者の前で礼儀正しく、かつ磊落(らいらく)に見える金正恩氏のキャラクターに対し、世間の好感度は増しているようだ。今回さらに、その傾向が強まることも予想される。

しかし、本当にそれで良いのだろうか? 金正恩氏は北朝鮮において「唯一領導体系」の上に君臨する圧倒的な独裁者だ。北朝鮮の体制が行うすべての行為は、彼の権力維持に従属している。核兵器開発や非核化はその一部分に過ぎない。今や、北朝鮮の人権問題に関する議論は非核化の「生贄(いけにえ)」としてすっかり下火になった観があるが、その責任が金正恩氏に対して問われるべき事実に変わりはない。

拷問や公開処刑など、北朝鮮における凄惨な人権侵害についてはすでに数多くの証言が紹介されている。

(参考記事:謎に包まれた北朝鮮「公開処刑」の実態…元執行人が証言「死刑囚は鬼の形相で息絶えた」

だがいまだに、それらの生々しい証言に接するたび、「果たしてこれは事実なのか」と疑いたくなることが少なくない。

(参考記事:北朝鮮の女子大生が拷問に耐えきれず選んだ道とは…

韓国の北韓人権情報センター(NKDB)が最近発表した、「2018 北朝鮮人権白書」もそうだ。たとえば咸鏡北道(ハムギョンブクト)出身のある脱北者の女性は、次のような証言を白書に寄せている。

「咸鏡北道出身の女性が2007年に、新義州(シニジュ)市の保衛部(秘密警察)に捕まっていました。中国で妊娠をした状態で捕まえられたのですが、保衛部は女性を市の安全部(警察)の病院に連れて行って強制堕胎させました。私は女性の面倒見役として一緒に連れていかれ、(一部始終を)見たんです。死産させるということでしたが、いざ生まれた赤ちゃんは生きていました。血だらけのまま2時間ほど泣き続ける赤ちゃんを見て、保衛員は、赤ちゃんを食堂の床に置けと指示しました。そこには、猫ほどの大きさのネズミがいる、非常に不潔な場所でした。その汚く冷たい床に赤ちゃんを置いておくと…」

あまりに惨い話なので、この先の証言は割愛したい。

このような証言に対しては、北朝鮮側としても「デタラメだ」と反論したいところだろう。反論自体はけっこうなことだ。筆者としても、こんなことは実際には行われなかったと信じたい気持ちもある。

(参考記事:「家族もろとも銃殺」「機関銃で粉々に」…残忍さを増す北朝鮮の粛清現場を衛星画像が確認

しかし金正恩氏は、これが嘘であると証明するために、国連がかねてから要請している人権問題に関する特別報告者の現地調査をまず受け入れる必要がある。そして、そのような調査が少しずつでも行われるようになれば、北朝鮮国内での人権侵害はわずかずつでも抑制されることになるだろう。

そうなれば、北朝鮮国民にとって利益であると同時に、いずれ北朝鮮の体制にとっても利益が生まれる。この点、文在寅氏が金正恩氏に対し、うまいこと話してくれれば良いのだが。

高英起(コウ・ヨンギ)

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1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記