韓国のリバティ・コリア・ポスト(LKP)は3日、北朝鮮当局が最近、金正恩党委員長の命を狙う「平壌―新義州スパイ団」を摘発したとの噂を流しているとする記事を掲載した。同記事によると今年4月、国家安全保衛省(秘密警察)傘下にある大学で開かれた保衛イルクン(幹部)大会で、8人が共和国英雄の称号を受けたという。これが、金正恩氏の暗殺を狙う動きを阻止したことによるものとされているというのだ。

LKPによれば、北朝鮮当局はまた、平壌や新義州(シニジュ)などの主要都市で講演会を開き、「革命の最高首脳部を除去しようとする外部勢力の策動がある」と宣伝しているという。

こうした情報は、どこまで本当なのだろうか。北朝鮮当局はふだんから、普通の人と同じトイレを使えない金正恩氏を守るため、徹底的な警護態勢を敷いている。

(参考記事:金正恩氏が一般人と同じトイレを使えない訳)

また金正日氏の時代には、「暗殺未遂」ではないかと疑われる出来事があった。2004年春に起きた龍川駅爆発事故だ。中国を訪問した金正日氏が特別列車で帰る帰路上で、小学生ら1500人を巻き込んだ謎の大爆発が起きたのだ。この出来事はいまもって、「暗殺計画」の可能性をはらむミステリーとして語られている。

(参考記事:1500人死傷に8千棟が吹き飛ぶ…北朝鮮「謎の大爆発」事故

また、東京新聞は2017年4月2日付の朝刊で、北朝鮮で金正恩党委員長の暗殺が計画され、未遂に終わったと伝えた。さらに2015年10月初め、北朝鮮の葛麻(カルマ)飛行場で、金正恩氏の視察前日に大量の爆薬が見つかったと米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じている。

建物の天井裏から発見されたのは、TNT火薬20キロ。手榴弾なら130個分以上になり、「暗殺計画」の存在を疑いたくなる量だ。

また北朝鮮は韓国が朴槿恵前政権下にあった時期、韓国の情報当局が金正恩氏の暗殺を狙っているとして繰り返し非難していた。果たして、朴槿恵政権が本当に金正恩氏殺害を狙っていたかどうかはわからない。ただ、北朝鮮が核兵器開発の道を突っ走り、対話の糸口すら見つからなかった当時、「もはや金正恩氏の除去しか道はないのではないか」との雰囲気が、韓国軍部などにあったのは事実だ。

もっとも、金正恩氏は進んで自らの命を危険にさらすような行動も取ってきた。弾道ミサイルの試射がある度に、現地で直接指揮していたのだ。その様子は間違いなく、米国の偵察衛星で監視されていたはずだ。その現場をステルス戦闘機などで奇襲されたら、ひとたまりもなかっただろう。

(参考記事:【画像】「炎に包まれる兵士」北朝鮮 、ICBM発射で死亡事故か…米メディア報道

金正恩氏は身辺の安全に気を使いながらも、このようにリスクも冒しながら、指導者としての威信を高めてきたのだ。

今回、北朝鮮当局が流している噂は、金正恩氏が露出する9日の建国70周年記念行事を前に、社会全体の警戒心を高めておくこと目的が大きいように思われる。それと同時に、絶えずこのような噂を流すことで、金正恩氏の「闘う指導者」像をアピールする狙いもありかもしれない。

高英起(コウ・ヨンギ)

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1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記