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北朝鮮に存在する無数の国営工場。かつては国の生産計画に応じて原材料を受け取り、製品を国に納めていたが、1990年代の大飢饉「苦難の行軍」のころにサプライチェーンが崩壊し、稼働が停止した。その多くが未だに再開できずにいる。

稼働はしていなくても、国営だけに所属する従業員には給料を払わなくてはならない。そこで、製造業を営むトンジュ(金主、新興富裕層)に工場や設備の一部を貸し出し、売上の一部を賃料として受け取り、資金を調達をするようになった。

そんな国営工場に強敵が現れた。同じ国営の協同農場だ。農場の幹部はトンジュに安い賃料を提示して、農場への工場の移転を持ちかけ、製造業の誘致に取り組んでいると、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。

平安南道(ピョンアンナムド)の情報筋によると、甑山(チュンサン)郡のある協同農場に今年の春、トンジュが営んでいた小規模の銀の精錬所が、国営工場から移転してきた。農場幹部が「土地を安く貸し出す」と口説き落としてのことだ。

この精錬所は豚舎の一部とその隣の土地を使っているが、1ヶ月の賃料は200ドル(約2万2000円)。国営工場なら売上の3割以上を賃料として納める必要があったが、この精錬所の場合、移転後に賃料が10分の1になったという。つまり、以前は月に2000ドル(約22万円)もの賃料を支払っていたということだ。

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工場の農村移転のメリットは賃料の安さだけにとどまらない。

トンジュは、農場から30里(約12キロ)離れた順川(スンチョン)の直洞(チクトン)鉱山で銀鉱石を買い付けている。違法行為であるため、輸送時には検問所でワイロを払う必要があったが、農村には検問所が少ないため、ワイロの額が少なくて済むとのことだ。

このような例を見て「工場をやるなら農村がお得」という噂がたちまち広がり、農村に移転する工場が急増しているとのことだ。国営工場の設備を借りて重油を生成するビジネスを行っていた別のトンジュも、契約満了と共に農村に工場を移転したという。

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別の情報筋によると、国営工場のレンタルは2000年ごろから始まった。トンジュは高い賃料に苦しめられていたが、それしか方法がないと諦めていた。そのころから農場を借りる手もあったのだが、誰もそこに注目しなかったのだ。また、農場の幹部もそういうことができるとは気づいていなかった。

ところが、市場経済化が進むにつれ農場の幹部もカネ儲けを考えるようになり、工場の誘致を始めたというものだ。ただでさえ農場は資金不足に苦しめられ、農機具、苗木、種、肥料を買うこともままならない状況だ。工場誘致の成功で、農場の運営も安定的に行えるようになるだろう。

ただ、当局は農場の耕作に使えない土地の貸出を禁じており、取り締まりも行われている。収入を失った国営工場が当局に密告し、トンジュへの土地貸出に何らかの制裁が加えられる可能性も考えられる。

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しかし、農場から貴重な現金収入を奪えば、収穫が減り食糧事情が緊迫する事態も生じかねない。

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