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北朝鮮の朝鮮労働党機関紙・労働新聞は18日、「米国内の政争が朝米関係を膠着させている」とする論評を掲載した。朝鮮中央通信が伝えた。

論評はトランプ米大統領を「対話派」と位置づけ、6月の米朝首脳会談についても、トランプ氏が「米国史上どの大統領もかなえなかった『幻想的な対面』を実現させ、全世界の歓呼と国民の大きな呼応を受けた」ものだと持ち上げている。

金正恩党委員長が、いかにトランプ氏を味方につけて置きたがっているかを、雄弁に物語るものと言える。

トランプ氏は7月20日、北朝鮮人権法を2022年まで延長する法案に署名し、成立させた。同法は、北朝鮮の残忍な人権侵害を止めさせるためのものだ。北朝鮮は人権問題への干渉を最も嫌っており、従来ならば「トランプ一味による謀略的な人権騒動」とかなんとか言って、猛反発していただろう。

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米政府は金正恩氏をはじめとする北朝鮮高官らを人権侵害に責任があるとして制裁指定しているが、これを知ったときの金正恩氏の怒りはすさまじかったと言われる。

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しかし、トランプ氏が署名してから1カ月が経つのに、北朝鮮はきわめて静かだ。もしかしたらトランプ氏は金正恩氏との間で、「非核化に応じる限り、人権問題には本気で干渉しない」という密約でも交わしているのではないか。

北朝鮮にとって、「完全な非核化」は簡単なことではないだろうが、不可能な課題でもない。金正恩党委員長は北朝鮮において、「全能」に近い独裁者だ。彼が決心すれば、たいていのことは実現できる。

しかし、人権問題は別だ。国民に対する人権侵害を止めるということは、恐怖政治を止めることと同義だ。そんなことをしたら独裁権力が弱まり、「全能」ではなくなってしまう。

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だから金正恩氏にとって、北朝鮮人権法が延長されたのは、面白いことであろうはずがない。同法は、北朝鮮の人権問題が改善しない限り、米国が北朝鮮に対して人道支援以外の援助を禁じるものだ。また今回の延長に当たり、人権侵害に関わった北朝鮮の当局者らに対する制裁を維持することや、中国が脱北者を北朝鮮に強制送還するのを即時中止させること、USBメモリーや携帯電話などを利用して北朝鮮に外部情報をもたらす啓発活動への支援を大統領に求めている。

中国による脱北者の強制送還は、様々な人権侵害を併発しているが、これが中止されたら中朝国境に一種の「自由地帯」が生まれかねず、金正恩氏がナーバスになるのは当然と言えば当然だ。

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外部情報の遮断は、北朝鮮当局が最も力を入れている分野であり、米国政府がこれに本気で挑戦したら、間違いなく非核化対話は壊れるだろう。

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金正恩氏としても、北朝鮮人権法が延長されたことに対し、言いたいことはたくさんあるのではないか。それでも、敢えて米国に非難を浴びせ、人権問題がクローズアップされるようなことになれば「やぶへび」である。

北朝鮮がいまだに口を閉じているのは、トランプ政権側が「人権問題への取り組みはポーズに過ぎない」とでも言質を与えたか、前述したとおり「やぶへび」を恐れ、トランプ氏が自分たちの立場を察してくれるよう祈っているかのどちらかだろう。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記