韓国のリバティ・コリア・ポスト(LKP)が伝えたところによると、北朝鮮は最近、江原道(カンウォンド)の「元山葛麻(ウォンサンカルマ)海岸観光地区」(以下、元山葛麻)の建設に動員された労働者と、咸鏡南道(ハムギョンナムド)の「端川(タンチョン)発電所」建設の現場に駆り出されていた労働者を、相互に入れ替えたという。

どちらも、現在の北朝鮮を代表するビッグプロジェクトだ。動員されている人員数もハンパではなく、入れ替えには相当な時間を要する。それに北朝鮮では、ムリな工期のゴリ押しや安全対策の欠如により、建設現場での事故が相次いでいる。

(参考記事:【再現ルポ】北朝鮮、橋崩壊で「500人死亡」現場の地獄絵図

つい最近においても、金正恩党委員長がほかの建設現場を視察した際、悲惨な「死亡事故」を予感させる「恐怖写真」が公開されたばかりだ。

(参考記事:金正恩氏の背後に「死亡事故を予感」させる恐怖写真

そんな状況下で労働者の大量移動を行えば、必然的に事故リスクが増し、完成も遅れる。それなのになぜ、北朝鮮当局は入れ替えを断行したのか。LKPにこの情報を提供した北朝鮮幹部は、次のように説明している。

「韓国政府が、『元山葛麻の建設に刑務所の囚人を動員した事実が明らかになったら、国際的な非難を浴び、観光リゾートしての価値を失いかねない』と金正恩に助言したと上司から聞いた」

LKPは7月、元山葛麻も建設現場には人民保安省(警察庁)管轄の9ヶ所の教化所(刑務所)、朝鮮人民軍(北朝鮮軍)保衛部(秘密警察)の教化所の収監者の中から、健康状態が良好な40代以下の25万人の人員を選抜し、現場に投入したと報じていた。これが事実で、仮に韓国側に情報が伝わっていたなら、そういった助言が出たとしても不思議ではなかろう。

しかし、元山葛麻の高級リゾートとしての名前に傷をつける要素があるとしたら、それは労働者の顔ぶれだけではないだろう。LKPによれば、現場ではこれまでに3000人もの労働者が事故で犠牲になっているとされる。これも確認しようのない情報ではあるが、前述した「恐怖写真」を巡る情報を踏まえれば、あり得ない話ではないと思える。そのような「血塗られたリゾート」に、外国人観光客が行きたいと思うだろうか。

核兵器開発に対する経済制裁により、財政のひっ迫する北朝鮮当局は、大規模建設事業を以前にも増して「安く」作ろうとしているのかもしれない。世界最悪レベルの人権侵害が横行するかの国では、囚人の命こそが、最も安く見られがちだからだ。

(参考記事:北朝鮮、核実験施設で「政治犯」を強制労働に動員か

しかし、そのような非常識は、国際社会には通用しない。核開発を放棄して海外からの投資を呼び込み、真っ当なコストをかけて事業を進めてこそ貴重な観光資源は生きるし、利益も生まれる。それを回避していては、いつまでも損失は埋まらない。

(参考記事:「手足が散乱」の修羅場で金正恩氏が驚きの行動…北朝鮮「マンション崩壊」事故

そんなことにも気づけないようでは、いくら首脳外交に精を出そうとも、金正恩氏が一流の指導者になる日は来ないだろう。

高英起(コウ・ヨンギ)

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1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記