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韓国の国家人権委員会は29日、2016年4月に中国の北朝鮮レストラン従業員らが集団亡命した事件に韓国の情報機関が介入したとの疑惑について、職権で調査すると発表した。

人権委は従業員らが自由意思で韓国入りしたのか、この過程で国家機関の違法な介入があったのかなどを調査するという。北朝鮮レストランはかねてから注目の的でもあり、調査に対する世論の関心も小さくはない。

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これに対し、韓国統一省のイ・ユジン副報道官は30日の記者会見で、統一省としては「従来の立場通りで、変わりない」と答えた。統一省は、情報機関の介入疑惑が取り沙汰されるようになってからも、従業員が自由意思で入国したとの見解を崩していない。

これまでに報道された当事者証言などから察するに、集団亡命にはやはり、韓国の情報機関が関わっていた可能性が高いように思える。

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いずれにしても、事件が起きたのは朴槿恵前政権下でのことだ。文在寅政権には、早いところ事実を全て明らかにし、責任から逃れるチャンスはあったはずだが、今となってはその余地は相当に小さくなっている。

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この状況は単に、現政権中枢の判断ミスによって生じたのかも知れない。だが一方で、北朝鮮側が仕掛けた「トラップ(罠)」が利いた可能性もある。

朝鮮労働党機関紙の労働新聞は21日、韓国政府に対し、集団亡命した女性従業員らを即時送還するよう要求する論評を掲載。朝鮮戦争などで生き別れになった南北離散家族の再会事業(8月20~26日)が迫っていることに言及しながら、「わが女性公民の送還問題が早急に解決されなければ、日程にのぼっている北南間の離散家族・親せきの面会はもちろん、北南関係の前途にも障害が来たされかねない」などと主張した。

北朝鮮は以前から、女性従業員らは自由意思によらず誘拐されたのだと主張し、即時送還を要求。それを離散家族再会の前提条件としてきた。そのため、4月の南北首脳会談で再会事業が合意されて以降も、実現は多難との見方も一部にあった。

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ところが、再会事業の日程などを最終的に詰めた6月22日の南北赤十字会談で、北朝鮮側は女性従業員の送還を強く要求しなかった。明らかに自分たちの側が有利なのに、主張を強くぶつけないとは、何か裏があるのではないか――。

そんな風に考えていたら、国連で北朝鮮の人権問題を担当するキンタナ特別報告者が一部の女性従業員と面会するなどし、情報機関の介入疑惑がどんどん強まる展開となった。

もしかしたら北朝鮮は、半ばこうなることを予想しながら、あえて再会事業の日程を先に決めてしまい、文在寅政権に「時限爆弾」を抱かせたのではないか。

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あるいは、韓国在住の脱北者に対する工作を強めてきた秘密警察の国家保衛省が、このような展開に導くべく、何らかのオペレーションを展開した可能性はないだろうか。

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今のところすべてはやぶの中だが、今後の成り行き次第では、真実の輪郭がおぼろげながらにでも見えるかもしれない。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記