金王朝の弱点「恥部」の研究(4)

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北朝鮮の金正恩党委員長の父・金正日総書記は映画などの芸術を愛し、また体制のプロパガンダの手段としても重視した。金正恩氏もそれを受け継ぎ、北朝鮮版ガールズグループとして知られるモランボン楽団を、体制宣伝で重用している。

こうした芸術家たちは高い実力を誇り、体制から厚遇されている。しかし、それは「光の部分」であり、その裏には「闇の部分」も存在する。韓国紙・朝鮮日報は2004年7月2日付で、脱北した舞踊家、キム・ヨニさんの次のような証言を伝えている。

「映画俳優や舞踊家が外貨を受け取って体を売ることはあまり驚くようなことではありませんでした。高位関係者が金正日(キム・ジョンイル)に隠れて有名な舞踊家をパーティーに呼び出して数百ドルのチップを渡して遊んでいたのは、今は昔の話です」

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キムさんは15歳の時、「喜び組」の選抜組織として知られる朝鮮労働党組織指導部の5課にその美貌を認められ、北朝鮮芸術界のトップ「血の海歌劇団」でキャリアを積んだ。

キムさんは10年間、北朝鮮で舞踊家として活動しながら目撃した同国の文化芸術界の裏側について、「外貨ブームが吹き荒れた1980年代の初めから腐敗し始め、今は腐敗した資本主義よりも腐っている」と語っている。

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外貨を求めて体を売ったのは、個々の芸術家の判断だったかもしれない。しかしその腐敗を、権力者たちがリードしたのも確かだろう。有名女優に食指を伸ばした権力者の中には、金正日氏もいたのだから。

また2013年12月、金正恩氏によって処刑された張成沢(チャン・ソンテク)元党行政部長も、元トップ女優のキム・ヘギョンら多数の愛人と関係があったとされる。愛人らは張氏処刑の巻き添えで粛清される運命を辿った。

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2002年に脱北したキムさんは、先の証言を「昔の話」として語っている。確かに、彼女が直接目撃したのは「昔の話」だ。しかし張氏の件が物語るように、腐敗は決して終わっていない。いや、単に腐敗としてではなく、北朝鮮女性に対する構造的な人権侵害の性格を強め、今も続いているのかもしれない。

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張氏を処刑する際、朝鮮労働党は彼の生活が「堕落していた」として断罪した。ならば金正恩氏には、そのような社会の腐敗堕落を根本的に改める意思があるのだろうか。仮にそのような意思があったにせよ、実行することは簡単ではないだろう。

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高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記