金王朝の弱点「恥部」の研究(1)

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韓国のアシアナ航空が揺れている。今月初めに明るみに出た、相当数の国際便が機内食を積み込めないまま運行した問題をきっかけに、朴三求(パク・サムグ)会長に対し社員から退陣要求が噴出。経験のない朴氏の娘がグループのリゾート会社役員に任命されていたことや、同会長が中国出張のために乗った飛行機だけに機内食が積み込まれていた事実が世論の悪化を招いた。

さらには公共放送のKBSが、アシアナのキャビンアテンダント研修生たちが朴氏をもてなすため、セクハラに近いイベント参加を強要されていたと報道(下)。その動画を入手して放映した。韓国メディアはこれを、まるで北朝鮮の「喜び組」のようだと報じた。

(参考記事:【動画と解説】「喜び組」から「暴行」まで…恥部さらして自滅する権力者

このような告発が相次ぐ背景には、財閥オーナー一族による企業の私物化がある。彼らは基本的に、グループ内では誰からも制約を受けずパワーを行使できる。そのため暴走しがちで、周りが見えなくなる。そして、「やりたい放題」を続ける中で恥部を抱え込み、それを暴露されて権威が失墜してしまうのだ。

程度の差はあれ、これは北朝鮮の金王朝が抱える問題と同じであると言える。金正日総書記もまた、「喜び組」を暴露されて対外的な権威に大きな傷を負った。

(参考記事:【動画アリ】ビキニを着て踊る喜び組、庶民は想像もできません

その「負の遺産」は、金正恩党委員長にも引き継がれている。金正恩氏は2013年12月、叔父である張成沢(チャン・ソンテク)元党行政部長を処刑。同時に、1万人とも言われる張氏の関係者たちを粛正・処刑した。その中には、張氏の愛人たちも含まれていたという。

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韓国に亡命した太永浩(テ・ヨンホ)元駐英北朝鮮公使が近著『3階書記室の暗号 太永浩の証言』(原題)で明かしているところによれば、北朝鮮国民は張成沢氏の愛人関係が明るみに出るに従い、権力層の腐敗堕落ぶりを知ることになった。日本では、故金正日総書記が愛した「喜び組」の存在はよく知られた話だが、北朝鮮の庶民は、そういったことをまったく知らない。

(参考記事:「幹部が遊びながら殺した女性を焼いた」北朝鮮権力層の猟奇的な実態

ところが張成沢氏の粛清をきっかけに、国家により選抜された少女たちの一部が権力者の性の玩具にされていることを、北朝鮮国民は知ってしまったのだ。

(参考記事:「エリート女学校長は少女達を性の玩具として差し出した」北朝鮮幹部が証言

太永浩氏は前述した著書の中で、次のように言っている。

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「北朝鮮国民は張成沢の不正と醜聞を通じ、腐敗堕落した白頭の血統の実像を目撃した。金氏の家門は共産主義とプロレタリア独裁の皮をかぶり、あってはならない奴隷社会を建設した。私は張成沢粛清が、今後、金正恩政権のアキレス腱になると見ている」

金王朝がその内側に抱える恥部を知ることは、北朝鮮の今後を占う上で、避けて通れないことであると言えるわけだ。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記