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朝鮮人民軍(北朝鮮軍)で軍官(将校)の除隊希望者が相次ぎ、軍が頭を抱えていると、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じている。特に多いのは尉官クラスの将校たちで、いわば金正恩時代の軍を担うはずのエリートたちだ。

北朝鮮社会で出世しようと思えば、朝鮮労働党の党員となることが必須だ。また、特別なコネのない庶民の子が党員になるには、軍に入って評価を得るのが近道だ。そのため、部下の入党を推薦できる軍幹部の権力は絶大で、兵士らは彼らの要求に泣く泣く従いつつも、軍を離れるわけにはいかなかった。女性兵士に対する「マダラス」と呼ばれる性上納の強要が、その典型である。

(参考記事:北朝鮮女性を苦しめる「マダラス」と呼ばれる性上納行為

しかし、状況は変わりつつあるようだ。平安北道(ピョンアンブクト)の情報筋がRFAに語ったところによると、除隊を申し出る軍官たちは、軍隊生活の劣悪さと将来の不安から、軍服を脱いで民間人に戻ろうとしているという。

「若い将校が昇進できないまま、突然軍隊を辞めさせられ社会に放り出されると、社会的に全く意味のない存在に転落してしまう」(情報筋)

そのため、若いうちに軍を離れて社会に出て経済的な基盤を作りたいと考え、軍をやめようとしているのだ。さもなくば時代に乗り遅れて貧困層に転落するという恐怖感があるのだろう。

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軍を辞める口実を作るために、幹部部(将校の人事を担当する部署)の部長や指導員にワイロを渡す。経済的な余裕がない将校は、鑑定除隊(病気で軍を辞めること)を認めてもらうために軍病院に入院し、軍医とグルになって虚偽の除隊鑑定書を提出する。

中には「頼むから辞めさせてくれ」と上官に抗議したり、無断欠勤、さらにはちょっとした犯罪に手を染めたりして、軍を辞める口実を作ろうとする人すらいるという。

咸鏡北道(ハムギョンブクト)の情報筋も、同様の現象が起きていることを伝えた上で、「特に最前線の軍団に勤務する軍官の間で辞めようとする人が多い」とし、劣悪な勤務、生活が問題の根底にあると指摘した。

(参考記事:「指揮官が遅刻するから戦闘準備できない」金正恩氏のポンコツ軍隊

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北朝鮮では、軍用の食糧がことごとく横流しされてしまうため、兵士の多くは飢えている。そんな状況で軍紀が守られるはずもなく、一時は兵士が民間人を襲撃したり、中国にまで行って強盗に走ったりする事件が頻発した。

(参考記事:【スクープ撮】人質を盾に抵抗する脱北兵士、逮捕の瞬間!

また、韓国に亡命する兵士が相次いでいることも、軍にとっては頭痛のタネだろう。そのような不祥事が起きれば、言うまでもなく、上官の責任が問われる。そんなことに巻き込まれて、一生を台無しにされてはたまらない――除隊を希望するエリート軍人たちには、そんな思いもあるのかもしれない。

(参考記事:必死の医療陣、巨大な寄生虫…亡命兵士「手術動画」が北朝鮮国民に与える衝撃

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記