北朝鮮では、「捨て子」問題が深刻化していると伝えられている。その背景には、当局が妊娠中絶を禁止し、避妊さえも実質的に禁止しているという事情がある。

(参考記事:北朝鮮で「捨て子」が深刻化…背景に「避妊・中絶」禁止

そのため市場の周辺などでは、「コチェビ」と呼ばれるストリートチルドレンの姿が今も見られる。コチェビは1990年代の食糧難の際に大量に発生し、2009年の貨幣改革(デノミネーション)失敗に際しても増加したと伝えられる。しかしそれ以降、北朝鮮の食糧事情や経済情勢は比較的安定しており、近年における「捨て子」増加は新たな世相から生まれた社会問題と言えるかもしれない。

こうした現状を受け、金正恩党委員長は保育院、愛育院、中等学院といった年齢層別の孤児院の整備に力を入れているが、これらの施設に最近、ちょっとした異変が見られる。デイリーNKの内部情報筋によれば、施設の入り口などに「見張り所」が設置され、孤児らに対する監視が強化されているというのだ。

従来、コチェビの多くは、たとえ厳冬期の路上で震えることがあっても、孤児院に収容されることに抵抗してきたとされる。なぜか。前出とは別の内部情報筋が以前、次のように語っていた。

「わが国の孤児施設は、育児園や愛育園の状態もひどいものだが、より年長の子どもたちが入る中等学院の状態は目に余るのです。運営担当者たちが食料から燃料からあらゆるものを横流しするので、子どもたちは栄養失調と寒さで生命の危機にさらされている」

さらには、子どもたちへの虐待も横行してきた。社会奉仕の名の下に各種の労働を強要し、幹部たちはその上にあぐらをかいているというのだ。以前、中等学院の少女十数人が教師により強姦され、問題になったことがあったが、虐待の形態はそれだけにとどまらない。

(関連記事:北朝鮮で孤児院教師が少女17人を性的虐待、怒る市民たち「厳罰を」

このような状況もあり、孤児院では子どもたちの脱走が頻繁に発生した。「見張り所」の設置は、そうした問題に対応するためか――筆者はそのように考えたのだが、理由はほかにもあるようだ。

最初に言及した情報筋によれば、中朝国境に近い地域で最近、孤児院の児童らが失踪する事件が相次いでいるという。どうやら「中国や韓国にいる脱北者が自分の子どもを脱北させているらしい」という。脱北時に連れ出せなかった子どもが孤児になって施設に収容され、親たちがそれを取り戻しに来ているということだ。

つまり「見張り所」の設置は、親たちが子どもを脱北させるのを防止するのが目的でもあるというわけだ。

どのような理由からであれ、子どもが親と生き別れになり、再会できなくなるといのはきわめて不幸なことだ。これが解消に向かわなければ、北朝鮮当局は本当の意味で孤児らを保護していることにはならない。

ただその一方、食料問題や学校教育、施設運営の面で、北朝鮮の孤児院の状態は改善に向かっていると情報筋は伝えた。事実であれば幸いである。

(参考記事:ストリートチルドレンから「半グレ」へ…北朝鮮コチェビの今

高英起(コウ・ヨンギ)

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1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記