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北朝鮮の金正恩党委員長はトランプ米大統領と首脳会談を行うため、10~13日の3泊4日の日程でシンガポールを訪問した。北朝鮮ウォッチャーの間では、恐怖政治で国内をまとめてきた金正恩氏が不在の間、北朝鮮国内の安定が保たれるかどうかについても、関心の目が向けられていた。

「暗殺未遂」か

結果的に特異動向は見られなかったのだが、実は、金正恩氏は自分の留守中、クーデターなどを警戒して朝鮮労働党や朝鮮人民軍(北朝鮮軍)、政府の高官たちを軟禁状態に置いていたとの情報が入ってきた。

デイリーNKジャパンのカン・ナレ記者の取材によれば、金正恩氏は自身の出発に合わせ、有力な高官たちをほとんど全員、出国させたという。そして、うち一部はシンガポールに同行させ、ほかの幹部らは在中国大使館で事実上の軟禁状態に置いたというのだ。

北朝鮮国内に残った高位幹部は崔龍海(チェ・リョンヘ)党副委員長くらいだったが、変態的な女性スキャンダルなどで悪名高く、人望のない崔氏は心配の種にはならなかったようだ。

(参考記事:「幹部が遊びながら殺した女性を焼いた」北朝鮮権力層の猟奇的な実態

一方、軍の指揮官らは上級部隊の政治部の部屋に集められ、監視下に置かれたとのことだ。トイレやタバコを吸いに行くのも制限され、食事中の私語さえ禁じられる厳しさだったという。

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これがすべて事実であっても、驚くには当たらない。金正恩氏が「国内の敵」に怯えているとしてもおかしくない状況が、実際にあったからだ。

父・金正日総書記の時代には、「暗殺未遂」ではないかと疑われる出来事があった。2004年春に起きた龍川駅爆発事故だ。中国を訪問した金正日氏が特別列車での帰路上で、小学生ら1500人を巻き込んだ謎の大爆発が起きたのだ。この出来事はいまもって、「暗殺計画」の可能性をはらむミステリーとして語られている。

(参考記事:1500人死傷に8千棟が吹き飛ぶ…北朝鮮「謎の大爆発」事故

トイレの悩み

また、東京新聞は2017年4月2日付の朝刊で、北朝鮮で金正恩氏の暗殺が計画され、未遂に終わったと報じている。

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同紙によれば、北朝鮮で36年ぶりに朝鮮労働党大会が開催された2016年5月、秘密警察・国家安全保衛部(現・国家保衛省)の地方組織が実施した一部住民に対する講演で、金正恩氏の専用列車の爆破計画が党大会前にあり、未遂に終わったと報告していた。

これだけではない。2015年10月初め、北朝鮮の葛麻(カルマ)飛行場で、金正恩氏の視察前日に大量の爆薬が見つかったと米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じている。建物の天井裏から発見されたのは、TNT火薬20キロ。手榴弾なら130個分以上になり、「暗殺計画」の存在を疑いたくなる量だ。

普通の人と同じトイレを使えない金正恩氏は、専用ベンツに代用品を積み込むなどして、自身の保安に気を使っている。

(参考記事:金正恩氏が一般人と同じトイレを使えない訳)

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筆者は、金正恩氏が非核化に動くことに反発する勢力が北朝鮮国内にいるとは思わない。しかし、あれだけ粛清しまくってきた同氏に対し、恨みを抱く人間は1人や2人ではないだろう。

(参考記事:「家族もろとも銃殺」「機関銃で粉々に」…残忍さを増す北朝鮮の粛清現場を衛星画像が確認

それにしても、指導者が外遊ひとつ行くたびにこれほど大騒ぎになるとは、この事実こそが金正恩体制の脆弱さを表していると言えよう。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記