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北朝鮮は1947年、労働者と事務員およびその扶養家族ら対し、国家社会保険法に基づき無償治療制度を開始した。朝鮮戦争中だった1952年11月13日には、「全般的無償治療を実施することについて」という内閣の決定を採択し、無償治療の対象を農民など全国民に拡大した。

理想は素晴らしいが、現実はそれに追いついていなかった。

北朝鮮は国家的な投資を行ったが、それだけでは不足し、旧ソ連、中国、東欧など共産圏からの支援で医療機関を設立。必要な医療機器や医薬品も援助でまかなっていたが、それでも財源が不足していた。無償で治療を受けられるものの、医療サービスの質は低くなってしまった。

曲がりなりにも行われていた無償治療も、1990年代後半の大飢饉「苦難の行軍」以降は行われなくなり、諸外国のような国民保険制度もないままに、北朝鮮の人々は医療費の負担に苦しむようになった。

平安南道(ピョンアンナムド)のデイリーNK内部情報筋によると、市場では違法な医療行為、医薬品の生産・販売が横行し、住民を不安がらせている。

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違法に生産されたものとして情報筋は、ペニシリン、マイシリン、点滴、ブドウ糖、モルヒネなどの注射薬、アスピリン、テラマイシンなどの飲み薬、加味寧神丸、牛黄清心丸などの漢方薬、一般的な胃薬、止瀉薬などがあると説明した。

医師に往診を依頼するときには、高級タバコ、酒、食事などでもてなすことが当たり前のこととされており、薬は市場で買うしかない。医師は、患者にカネがありそうなら丁寧に治療するが、そうではなければ適当に済ませる。

また、国営の病院での治療費も上昇傾向にあり、不満の声が上がっている。

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平安南道人民病院に超音波検査を受けた人は、検査費2万北朝鮮ウォン(約260円)に加え、担当医に3万北朝鮮ウォン(約390円)の付け届けを渡した。さらに、交通費、食費、宿泊費などを含めて19万北朝鮮ウォン(約2470円)も費やしたという。

その結果、虫垂炎(盲腸炎)の診断を受けて手術を受けることになった。担当の医師に10万北朝鮮ウォン(約1300円)の手術費を渡し、7日間の入院費、包帯、消毒薬、抗生物質、栄養剤にも8万北朝鮮ウォン(約1040円)を払った。

結局かかった費用は、薬代を除いても40万北朝鮮ウォン(約5200円)に達した。コメ80キロが買える大金だ。ちなみに、この人が勤める国営企業から受け取る月収は3500北朝鮮ウォン(約45円)に過ぎない。

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リスクに応じて手術費は上がる。女性の避妊手術(支給切除)は中国人民元で300元(約5100円)、子宮筋腫の手術は400元(約6800円)だ。

医療費を払える状況にない人は、市場で薬を購入したり、鍼灸や無免許の医師に頼らざるを得ないという。そんな状況に庶民の間からは「獣にも劣る、虫けらのような人生」という嘆きが聞かれるという。

(参考記事:【体験談】仮病の腹痛を麻酔なしで切開手術…北朝鮮の医療施設

高騰する医療費のせいで、救われるべき命が失われている。

平城(ピョンソン)市の栢松里(ペクソンリ)に住んでいた40代の女性は、子宮がんにかかっていることを知りながら、治療費がなく何もできずに死んでしまったという。

また、平城石炭大学の女子学生は、民家で違法な中絶手術を受けている最中に、出血多量で死亡した。この件は口コミで広がり社会的に波紋を呼んだ。

劣悪な医療環境が放置される一方で、当局はスマートフォンを使った遠隔治療システムを開発したと宣伝している。物事を進める順序が「激しく間違っている」としか言いようがない。