6月12日に開かれた歴史的な米朝首脳会談で、金正恩氏の外交を支える側近たちが勢揃いした。会談に先立ち金正恩氏の親書をトランプ氏にわたすために訪米した金英哲(キム・ヨンチョル)党副委員長をはじめ、李スヨン党副委員長、李容浩(リ・ヨンホ)外相、崔善姫(チェ・ソニ)外務次官、そして実妹の金与正(キム・ヨジョン)党第1副部長だ。

これらの人物とは別に、意外な人物がシンガポール入りしていた。

金正恩氏の元カノ説も

シンガポール入りした金正恩氏に随行した意外な人物、その名は玄松月(ヒョン・ソンウォル)。玄氏は、1980年代後半から2000年代はじめにかけて、北朝鮮ポップス、いわゆるNK-POPの旗手と言えるポチョンボ電子楽団のスター歌手だった。一時期、金正恩氏の元カノと噂されたが、父である金正日総書記の愛人だったとの説が有力だ。(参考記事:金正日の女性関係、数知れぬ犠牲者たち

玄氏は今年2月に韓国で開かれた平昌五輪に派遣された「三池淵管弦楽団」の団長として、日本でもその名が広く知れ渡った。彼女の本来の立場は「モランボン楽団」の団長、いわば総監督だ。北朝鮮初のガールズグループであり、北朝鮮版AKB48とも言われることがあるモランボン楽団は、金正恩氏の肝いりで創設されたこともあり、彼女が金正恩氏から最も寵愛を受ける女性のひとりであるのは間違いない。

こうした経緯から、「金正恩氏が喜び組をシンガポールに同行させた」とささやかれるかもしれないが、喜び組とは最高指導者の身辺補佐をする女性たちの総称だ。喜び組の女性たちは、マッサージ、スポーツ、公演などの専門分野に別れており、夜の奉仕をする特別な組織も存在するとも言われている。(参考記事:北朝鮮の「喜び組」に新証言…韓国テレビ「最高指導層の夜の奉仕は木蘭組」

玄氏のシンガポール入りの理由は不明だ。筆者は現地での取材を通じ、彼女以外にも、モランボン楽団のあるメンバーの姿がシンガポールで補足されたとの情報を得た。もしかすると、シンガポールでのモランボン楽団の海外公演をねらっているのだろうか。

米朝首脳会談を通じて、北朝鮮とシンガポールの関係は今後も強化されるだろう。シンガポールにしてみても、歴史に刻まれる会談が自国で開催されたことで、国家としての名声を高めた。そこで、米朝首脳会談の場を提供したシンガポールへの感謝を込めて、モランボン楽団を派遣する。その先には米国での公演も考えているかもしれない。

外貨獲得の狙いもある。それだけでなく、文化交流を突破口にした外交を北朝鮮は得意としている。金正恩氏の動きもさることながら玄松月氏、ならびにモランボン楽団の動きにも注目される。(参考記事:金正恩氏を支える「5人の美女」たちの仕事

高英起(コウ・ヨンギ)

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1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記