北朝鮮の貿易会社が今年に入ってから中国から大量にコメを取り寄せている。その行き先は朝鮮人民軍(北朝鮮軍)だという。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。

平安北道(ピョンアンブクト)の情報筋によると、北朝鮮の貿易会社は今年1月から中国から毎年100トンものコメを取り寄せている。そのコメは軍部隊に優先的に供給されている。鉄道や船で取り寄せるが、麻袋には何も書かれておらず、中国の貿易会社から取り寄せたのか、人道支援として入ってきたのかわからないとのことだ。

コメは、糧政事業所(精米、供給を担当する部署)で精米して、軍部隊に供給されるため、一般住民の手に届くことはない。

本来、軍部隊に供給されるコメは、協同農場で収穫されたものだが、収穫量が足りていない。それだけではない。輸送過程で損失が生じさらに目減りするのだが、その最大の理由は横領と横流しだ。軍の規律は乱れきっており、こうした不正や性的虐待が横行している。

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「軍の高位幹部と傘下の指揮官が軍糧米を横領するのは、よく知られた話だ。ほとんどの部隊で食糧不足に兵士たちが慢性的な栄養不足に苦しんでいる」(咸鏡北道<ハムギョンブクト>の情報筋)

当局は、兵力の強化ではなく、兵士の餓死を防ぐために大量のコメを輸入しているということだ。

北朝鮮では1990年代、社会主義的な計画経済と国民への配給システムが事実上、崩壊。その後はなし崩し的に市場経済化が進んでいる。それに伴い、市場での商売に励む国民の購買力が増し、その力強い需要に応える形で、食糧供給が改善してきた。

しかし、その例外に置かれているのが軍隊だ。規律に縛られた兵士たちは商売に取り組むことができず、現金収入を得られないから市場で食べ物を買うことができない。配給の食糧は横流しされ、少なくない兵士たちが栄養失調に苦しんでいるとされる。つまり、朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の本当の敵は米軍でも韓国軍でもなく、「飢餓」と言えよう。

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このような背景から、飢えに苦しむ兵士たちが協同農場を襲撃し、農作物を略奪する事件が頻発。地域住民からは「あんな土匪(馬賊)みたいなやつらを使って一体どんな戦争をするというのか」と罵られている。飢えた兵士たちは、国境を越えて中国にまで侵入し、たびたび強盗事件を起こしている。そのため、中朝国境地域の中国側では、地元住民が自警団を結成して対応するほどだ。

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また、国境警備の強化で最近は収まっているようだが、中朝国境地帯の中国側では脱北兵士による凶悪犯罪が相次いでいた。

2014年12月には、吉林省和龍市の村の民家に北朝鮮軍の兵士が押し入り、4人を殺害し、カネを奪って逃げる事件が起きた。また、2015年4月にも同じ和龍市で北朝鮮軍の兵士が強盗殺人事件を起こしている。

(参考記事:北朝鮮の脱北兵士、中朝国境の村で住民3人を殺害

高英起(コウ・ヨンギ)

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1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記