米紙ワシントン・ポストが3日までに報じたところでは、12日にシンガポールで開催される米朝首脳会談と関連し、金正恩党委員長ら北朝鮮側の現地宿泊費を誰が、どのように負担するかが難題となっているという。
同紙によると、北朝鮮側は超高級ホテル「フラトンホテル」での宿泊を希望しており、金正恩氏が泊まると見られるスイートルームは1泊6千ドル(約66万円)以上もする。外貨不足の深刻な同国は関係国による支払いを要請しているとのことだが、経済制裁との絡みもあって、簡単には結論が出ないようだ。
とは言っても、この程度の問題は放っておいてもいずれ結論が出る。それよりも、このニュースに接して思い浮かんだのが、海外に駐在する北朝鮮外交官たちの困窮ぶりだ。
(参考記事:北朝鮮外交官の月給は8万円…「うつ病」も続出)韓国に亡命した元駐英北朝鮮公使の太永浩(テ・ヨンホ)氏は、韓国で出版した自叙伝『3階書記室の暗号 太永浩の証言』(原題)の中で、友人であるキム・チュングク元駐イタリア大使の死について、次のように言及している。
「2016年1月、イタリア駐在の北朝鮮大使だったキム・チュングクが、現地で死亡した。私の最も親しい友人だった。肝臓がんのため何カ月か病床に伏し、苦痛の中でこの世を去った。韓国メディアは当時、大使がなぜ、健康診断も受けず、末期がんになって病院へ行くのかと不思議がった。本人が健康に気を遣わなかったせいもあろうが、たぶん財政的な苦しさのために病院へ行けなかったのだろう」
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面北朝鮮政府は、外交官の医療費を負担しないため、ただでさえ外貨不足に苦しむ外交官たちは、病気になってもろくに治療すら受けられないということだ。
その一方、金正恩氏は国内で高級ベンツをぶっ飛ばすなど贅沢三昧をしてきた。
(参考記事:金正恩氏の「高級ベンツ」を追い越した北朝鮮軍人の悲惨な末路)その裏には、駐在国でひたすら外貨稼ぎに精を出してきた一部の外交官たちがいる。中には、違法薬物や金塊、酒類の密輸に手を染めていたケースもある。そのある部分は本人の蓄財のためかもしれないが、大部分は国家の要請に応えるためのものだ。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面そして、そのように稼ぎ出された外貨によって「金正恩秘密資金」が形成され、核・ミサイル開発の軍資金となり、あるいは金正恩ファミリーの優雅な暮らしを支えてきたのだ。
(関連記事:金正恩氏が大金をつぎ込む「喜び組」の過激アンダーウェア)金正恩氏は、核兵器開発を停止して経済発展に力を入れる方針を掲げているが、外交官の医療費すら賄ってこなかった現状から脱するだけでも、相当な努力が必要だ。仮に米朝首脳会談がうまく行ったとしても、北朝鮮の行くべき道は、果てしなく長いように思われる。
高英起(コウ・ヨンギ)
1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 、 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 、 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。