北朝鮮の首都・平壌は、地下鉄2路線、路面電車4路線、トロリーバス8路線、さらに40路線近いバスが運行されている、公共交通機関の整備された都市だ。

一方で、それ以外の地方都市は、公共交通機関は一応あるものの、まともに運行されていない。かつては20以上の都市でトロリーバスが運行されていたが、1990年代後半の大飢饉「苦難の行軍」のころから深刻化した電力難で、運行ができなくなってしまった。バスも同様だ。

北朝鮮の人々は自転車やソビ車と呼ばれる民間の輸送車両を移動手段として使ってきたが、公共交通機関にようやく復活の兆しが現れた。中国と国境を面する人口35万人の貿易都市、新義州(シニジュ)で昨年、市バスが復活したのだ。

丹東にやってきた新義州(シニジュ)市民が、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)の記者に、復活した市バスについて次のように説明している。

運行が始まったのは昨年10月ごろで、市内4路線に加えて郊外の龍川(リョンチョン)や威化島(ウィファド)に向かうバスも1日1〜2便が運行されている。料金は、距離と関係なく500北朝鮮ウォン(約6.5円)だ。運行間隔は不明だが、「はっきりとした数はわからないが、中国から輸入した300台の中古バスを使っている」(情報筋)ことを考えると、かなりの高頻度の運行と思われる。

平壌市内の高麗ホテル前を走る、元大阪市営バスの車両(画像:読者提供)
平壌市内の高麗ホテル前を走る、元大阪市営バスの車両(画像:読者提供)

車両は中国から輸入した中古のディーゼルバスで、塗装もメンテナンスもキチンと行っており、かなりいい状態を保っているという。

新義州は、中朝国境を流れる鴨緑江に面した旧市街地と、内陸にある新市街地が、農地を挟んで3キロほど離れているなど、人口の割には市域が広いという特徴を持つ。それだけあって、市民にとって市バスの復活は朗報だろう。

しかし、皆が喜んでいるわけではない。市バス復活で、タクシー業界は打撃を受けている。

別の情報筋によると、タクシーは中国人民元で10元(約170円)の料金を取っているが、幹部やトンジュ(金主、新興富裕層)、外国人ぐらいしか乗れない高級な乗り物だった。情報筋は明言していないが、市バスが復活したせいで、客がバスに流れた模様だ。

市バスの車体について中国の対北朝鮮情報筋は「中国政府の大気汚染対策で廃車にされたもの」だと語る。

「中国の大都市では2〜3年前から、大気汚染改善のために老朽化したディーゼルバスが、環境に優しい天然ガスのバスに置き換えられつつある。要らなくなった車体を北朝鮮に二束三文で売り飛ばした」(情報筋)

丹東新聞網によると、丹東の市バスは2011年から天然ガス車への置き換えが始まり、昨年4月の時点で576台のうち、85%にあたる491台が置き換えられた。新義州で運行されているバスの車体は、元々丹東を走っていたものである可能性がある。

情報筋は「市バスの運行は北朝鮮の人々の苦しい懐事情を考えるととてもいいこと」と評価しつつも、「中古バスの整備がきちんとされているか心配だ」とも述べた。

一方、平壌出身で韓国在住の脱北者のイさんは、料金が平壌より高いことに注目する。

平壌の地下鉄、路面電車、バスの運賃はタダ同然の50北朝鮮ウォンなのに、地方都市の新義州のバス運賃がその10倍もすることで、「地方差別だ」との批判が起こりうると指摘した。

実際、当局は、平壌郊外の平城(ピョンソン)を走るトロリーバスの運行を正常化させたが、料金を1000北朝鮮ウォン(約13円)と従来の200倍に値上げしたため、批判を浴びている。計画経済の時代に策定された公定料金を、市場経済化が進む現実に合わせたのだろうが、「庶民の懐から小銭をかすめ取ろうとしている」と受け止められてしまうのだ。

(参考記事:北朝鮮のトロリーバス運賃「200倍値上げ」の背景