北朝鮮当局は3月初めから、国の機関や国営企業などの貨物トラックのドライバーがカネを受け取って人を荷台に乗せる行為を禁止し、取り締まりを行っている。そのきっかけとなったのは、たった1日で300人が交通事故で死亡するという深刻な事態だ。(丹東=カン・ナレ記者)

「もう乗せるな」金正恩氏が命令

北朝鮮の貿易機関の幹部によると、事故を起こしたのはある貿易機関に所属するトラックだ。現場には前日午後から大雨が降っていた。通常、北朝鮮北部で雨が降るのは4月中旬以降で、3月初めの大雨は観測史上初めてのものだった。

(参考記事:死者数百人の事故が多発する北朝鮮の「阿鼻叫喚列車」

朝鮮中央テレビによると、3月5日に観測された白頭山の最低気温は氷点下28度。山の麓でも非常に寒く、道が凍結してしまった。そこを通りかかった貨物トラックが事故を起こし、荷台に乗っていた多くの人が死傷する大惨事となった。

この事故だけではない。2018年3月5日は、歴史に残るほど多くの人命が失われた日となってしまった。

別の情報筋によると、カラマツを積んだ農業経営委員会のトラックと乗用車6台が、(ポチョン)郡の国境警備隊4大隊付近で、国境を流れる鴨緑江に転落。76人が死亡し、30人余りが重傷を負う事故があった。

アイスバーンとなっていた下り坂で、先頭の車がスピンして道を遮ったところに、後ろから来た乗用車が次々に衝突、転落したという。死者のほとんどが普天郡の青林(チョンリム)、先鋒(ソンボン)協同農場の農民だった。

また、別の情報筋は同じ日に、両江道貿易管理局まで重石を運んでいた大鳳(テボン)鉱山のトラックが転覆、荷台に乗っていた33人が死亡した。

さらに、恵山(ヘサン)市郊外の樺田(ファジョン)峠では、道内の三池淵(サムジヨン)郡からきたトラックが事故を起こし、子どもを含む21人が死亡した。他の事故まで合わせると、この日だけで道内で300人が死亡、数百人が重傷を負ったと情報筋は伝えた。

樺田峠で事故を起こした車には、護衛司令部小隊長とその婚約者が乗っていた。

婚約者は死亡し、重傷を負った小隊長は電話で部隊に事故の知らせを入れた。部隊の指揮官から電話で報告を受けた朝鮮労働党両江道委員会のリ・サンウォン委員長が現場に向かい、金正恩党委員長に報告した。それを受けて金正恩氏は3月10日、「すべてのトラックの荷台に人を乗せてはならない」との指示を人民保安省に直接下した。

同時に金正恩氏は「事故で命を落とした人々を丁重に弔え」との指示を下したが、実際に葬儀が執り行われたのは護衛司令部小隊長と同じ車に乗っていて亡くなった21人だけで、他の事故の死者の葬儀には誰も関心を示そうとしなかったという。

そもそも、北朝鮮では車両や燃料不足により公共交通機関がまともに運行されていない。その穴を埋めているのが「ソビ車」と呼ばれる個人経営のタクシーや運送屋、あるいは政府機関や国営企業の車両だ。荷台乗車を禁止すると人の移動ができなくなるが、その心配はなさそうだ。

人民保安省はトラックの荷台に人を乗せる行為に対する取り締まりを強化したが、保安員は現金や中国製のタバコをワイロとして受け取り、見逃しているので、「取り締まり強化は意味がない」と情報筋は説明した。