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韓国のソウル中央地検は15日、朴槿恵政権時代に国家情報院(国情院)が中国の北朝鮮レストランで働く女性従業員らを強制的に集団脱北させた疑いがあるとして、公安2部が捜査に乗り出したことを発表した。

核開発を巡り国際社会の経済制裁が強められるまで、北朝鮮の外貨稼ぎの柱のひとつだった北朝鮮レストランは、ときにアイドル並みの容姿を誇る美人ウェイトレスも配置され、韓国人の間でも人気だった。それだけに、集団脱北が発生した際には世間の大きな関心を集めた。

(参考記事:美貌の北朝鮮ウェイトレス、ネットで人気爆発

この出来事を巡っては、北朝鮮が直後から韓国当局による「誘拐拉致」であると主張。さらに韓国国内においても、革新系の弁護士団体「民主社会のための弁護士の会」(民弁)などが、国情院による「企画脱北」ではないかと疑惑を提起していた。

女性従業員らは2016年4月、中国浙江省寧波市の北朝鮮レストラン「柳京食堂」から集団で離脱し、間もなく韓国入りした。韓国政府はこの事実を即座に発表したが、総選挙を数日後に控えたタイミングだったことから、「脱北は(選挙に影響を与えるために)企画されたもの」との疑いを呼んだのだ。

韓国政府は一貫して、従業員らは自らの意思で脱北したと説明してきた。ところがところが韓国の放送局であるJTBCは今月10日、女性従業員らと一緒に脱北したレストランの男性支配人、ホ・ガンイル氏のインタビューを放映。ホ氏はその中で、国情院の担当者から従業員を連れて脱出するよう教唆を受け、従業員たちを脅して連れ出したと告白した。

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これが事実か否かは、検察の捜査によっていずれ明らかになるだろう。

問題はその後だ。韓国政府はこれまで、たとえ本人が希望しても、脱北者が本国へ帰ることを許さなかった。これには、人道的な見地から問題がないわけではない。しかし、「韓国に来てみたけど、期待はずれなのでやっぱり帰る」ということを許容してしまうと、北朝鮮の工作員は脱北者に偽装し、容易に韓国社会に浸透できるようになる。

そうでなくとも、北朝鮮は脱北者に対する様々な工作活動を繰り広げてきた。故郷の家族を人質に取られている脱北者は、北朝鮮当局の工作に対しぜい弱なのだ。

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北朝鮮当局は昨年6月、韓国が集団脱北した女性従業員らを送還しなければ、南北離散家族の再会事業に応じない方針を示した。最近の南北対話の流れの中でも、これがハッキリ撤回されたわけではない。

恐らく、対話維持を重視する文在寅政権の中には、「できれば彼女らを帰してしまいたい」と考える向きもいるだろうが、くれぐれも拙速な判断が下されないよう、韓国のメディアは監視を強めるべきだ。

(参考記事:20代美人ウェイトレスを直撃…「北朝鮮レストラン」の舞台裏

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記