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かつて、国策として日本などに覚せい剤を密輸し、害悪をまき散らした北朝鮮だが、今では自らが深刻な違法薬物の蔓延に悩まされている。

その原因のひとつとなっているのが、医療体制の崩壊だ。北朝鮮ではまともな診療を受けるのも、まともな医薬品を手に入れるのも、容易なことではない。病院ですら、麻酔なしで開腹手術が行われるケースがあるほどだ。

(参考記事:【体験談】仮病の腹痛を麻酔なしで切開手術…北朝鮮の医療施設

そんな中、人々はより簡単に手に入る覚せい剤を、病気を治す効果があるものと勘違いして使っているのだ。言うまでもなく、覚せい剤に医療の効果などない。その科学的な特性により、一次的に疲労を忘れるなどの作用が表れるだけだ。

(参考記事:一家全員、女子中学校までが…北朝鮮の薬物汚染「町内会の前にキメる主婦」

金正恩党委員長は再三にわたり取り締まりの号令をかけてきたが、大きな成果は上がっていない。ある覚せい剤の乱用者は、次のように言って、取り締まりに対する反感を表している。

「市民の多くが(覚せい剤を)やっているのに、いくら取り締まりをしたところで無駄だ。我々全員を処刑することも、刑務所送りにすることも出来はしない。幹部も出勤前にキメているというのに、どうして庶民はダメなのか。1回キメれば、生活の苦労も忘れ、気持ちがいい。こんな世知辛い世の中、覚せい剤なしでは生きていけない」

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ところが最近になって、覚せい剤を敬遠する人が増えてきたとの情報がある。

両江道(リャンガンド)のデイリーNK内部情報筋によれば、北朝鮮の人々は食うや食わずの生活を送っていた状況を脱し、健康に気を使うようになりつつある。それだけ食糧事情が改善されたということだ。そしてそんな新たな状況の中、人々の間では西洋医学より東洋医学の人気が上昇しているという。

「西洋の薬が漢方薬より効き目が早く現れることは知っているが、他に良くない影響を与

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えるという認識が強い」(情報筋)

つまり、副作用を恐れているということだ。また、ニセ薬も横行しているため、西洋医学で用いられる抗生剤などの類は安心して服用できないという事情もある。

東洋医学で用いられる漢方薬ならば、医薬品の生産インフラが貧弱な北朝鮮においても、市場を通じて調達できる。そしてそのことが、覚せい剤の駆逐にもつながっている可能性があるのだ。

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「漢方薬を飲む人が増えるにつれ、覚せい剤を使う人が減ったようだという話もある」(情報筋)

事実ならば、非常に喜ばしいことだ。しかしこれだけで、北朝鮮社会が薬物汚染から脱することができるわけではないだろう。金正恩氏は、自国社会の薬物汚染の克服が、朝鮮半島の平和と安定に必須であることを厳しく認識すべきだ。

(参考記事:コンドーム着用はゼロ…「売春」と「薬物」で破滅する北朝鮮の女性たち

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記