金正恩氏に葬られた人々(3)

北朝鮮には「連座制」がある。誰かが国家反逆罪に問われたら、その一族郎党がまとめて処罰されるシステムだ。現在、政治犯収容所には8~12万人が囚われていると推定されるが、その何割かは本人に罪はなく、この「連座制」で送られた人々だと見られている。

たとえば、韓国のNGO・北韓人権情報センターが2016年8月1日に発表した「北朝鮮政治犯収容所の勤務者、収容者、失踪者人名辞典」によれば、ここで言及された収容者・収容推定者・行方不明者1258人の罪名で最も多かったのが、連座制の365人(29%)だった。

連座制が大規模に適用された事例として知られるのが、1990年代に起きた「フルンゼ軍事大学留学組事件」と「第6軍団軍事クーデター未遂事件」、そして「深化組事件」だ。いずれも千人単位の人々が粛清対象となり、とくに深化組事件では2万5000人が処刑されたり収容所送りになったりしたと言われる。

(参考記事:血の粛清「深化組事件」の真実を語る

これらはいずれも、金正日総書記の時代に起きた出来事だ。金正恩党委員長の時代になってからは、これほど大規模な連座制の適用は報告されていない。ただし、2013年に金正恩氏の叔父・張成沢(チャン・ソンテク)元国防副委員長が処刑された際には、彼に連なる人々が大勢粛清された。

その中には、「喜び組」出身で一時は銀幕のスターだった女優キム・ヘギョンや、北朝鮮きっての「イケメン俳優」と言われたチェ・ウンチョルも含まれている。

(参考記事:【写真】女優 キム・ヘギョン――その非業の生涯

とくにチェ・ウンチョルは、張成沢氏の縁戚だった。彼は、一時は北朝鮮で「実力ナンバーワン」と言われた張成沢氏の威光を背景に、様々な利権事業に介入して巨額のカネを手にしたのだ。そこまでは良かったものの、2013年12月に張成沢氏が処刑されると、「張成沢一派」と見なされともに葬られてしまったのだ。

(参考記事:【写真】北朝鮮の「イケメン俳優」チェ・ウンチョル

またキム・ヘギョンは張成沢氏の愛人であり、ふたりの間には子供もいるとされる。このほかにも、張成沢氏の関連で連座制により収容所送りになった人々もいると思われる。その実態が明らかになれば、いずれ深化組事件などと同等の大粛清として語られる日も来るかもしれない。

改めて言うまでもないことだが、罪を犯したわけでもないのに、肉体的・政治的に葬られるなどあってはならないことだ。金正恩氏は、この非道かつ無慈悲な手段を、迷わず行使できる人物なのである。

(参考記事:同窓会を襲った「血の粛清」…「フルンゼ軍事大学留学組」事件

高英起(コウ・ヨンギ)

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1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記