金正恩氏に葬られた人々(2)

人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面

金正恩政権下で行われた粛清・処刑の中には、金正恩氏の個人的な感情、あるいは彼のキャラクターが原因の大きな部分を占めたと思われるケースがいくつもある。

前回の本欄で触れた玄永哲(ヒョン・ヨンチョル)元人民武力部長もそうだし、2015年にはスッポン工場を現地指導した際、管理の不備に工場内で激怒。後に責任者を処刑し、さらにその直前の動画まで公開したことがある。

(参考記事:【動画】金正恩氏、スッポン工場で「処刑前」の現地指導

韓国の国家情報院傘下の機関は同年11月26日、金正恩第1書記の心理に踏み込み、「傍若無人な性格」「絶対権力に陶酔している」「感情に基づいた処刑が多い」などと分析したレポートを発表している。

また韓国の聯合ニュースは2016年8月、北朝鮮国内で出回る噂として、金正恩氏が激怒した際、「拳銃に実弾を装填して辺りに乱射した」との情報を伝えた。あくまでうわさだが、事実ならば正気の沙汰ではない。

(参考記事:金正恩氏が「ブチ切れて拳銃乱射」の仰天情報

そして極めつけが、2013年に行われた芸術団メンバーたちの公開処刑だ。北朝鮮にはかつて、銀河水(ウナス)管弦楽団という音楽グループがあった。金正恩党委員長の妻・李雪主(リ・ソルチュ)氏がかつて所属していた楽団だ。金正日総書記によって2009年に創設された同楽団は、精力的に公演活動を行っていたが、2013年に突如として解散させられる。

人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面

そして同年8月、日本と韓国のメディアは、ポチョンボ電子楽団の元人気歌手でありモランボン楽団の団長である玄松月(ヒョン・ソンウォル)氏が処刑されたと報じた。これは誤報だったが、銀河水管弦楽団などの有名芸術団メンバーが公開処刑されたのは事実とされている。

脱北者で韓国紙・東亜日報の名物記者でもあるチュ・ソンハ氏が昨年8月31日、自身のブログで興味深い記事を公開した。

ソルチュ氏が正恩氏のパートナーとして選ばれた際、彼女が所属していた銀河水(ウナス)管弦楽団の同僚や友人ら数人が、ソルチュ氏に「元カレ」がいたことを示す「証拠写真」を回し見した。これが、北朝鮮当局の知る所となり、公開処刑にまで発展したというのだ。

(参考記事:金正恩氏「美貌の妻」の「元カレ写真」で殺された北朝鮮の芸術家たち

人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面

事実ならば、権力者によるこれほどの横暴を、筆者はほかに聞いたことがない。「森友・加計」スキャンダルの比ではないのだ。今後の南北対話や米朝首脳会談の流れによっては、金正恩氏が「いい人」のように見えることもあるかもしれないが、それは錯覚であるということを、今から認識しておいてほしい。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記