金正恩氏によって、北朝鮮の大物幹部2人が表舞台から消え去ったことが明らかになった。一人は黄炳瑞(ファン・ビョンソ)元軍総政治局長、そしてもう一人は金元弘(キム・ウォノン)元国家安全保衛相だ。いずれも金正恩氏の最側近と目されていた。

ミンチにして処刑

今月13日、北朝鮮で最高人民会議第13期第6回会議が行われた。会議では、金正恩氏の「提議」によって黄炳瑞、金元弘の両氏が国務委員から解任されたことが発表された。

実は、この2人に関しては昨年からなんらかの処罰を受けたのではないかと言われてきた。金正恩氏による処罰となると、粛清、そして処刑は避けられない可能性がある。金正恩氏はこれまで何人もの幹部たちを、人体をミンチにするような非常に残忍な方法で処刑してきたからだ。

(参考記事:玄永哲氏の銃殺で使用の「高射銃」、人体が跡形もなく吹き飛び…

とりわけ金元弘氏は、国家保衛省(以下、保衛省)のトップとして金正恩氏の恐怖政治を支えてきた。保衛省は政治犯収容所の運営や公開処刑を担う、恐怖政治の柱だ。

(参考記事:謎に包まれた北朝鮮「公開処刑」の実態…元執行人が証言「死刑囚は鬼の形相で息絶えた」

しかし昨年1月中旬までに、金元弘氏が保衛相を解任されたと韓国の各メディアが報じた。韓国の統一省も昨年2月にはこの事実を確認したという。実際、金元弘氏は本来なら参加して当然の公式行事に姿を見せくなる。

その後、昨年11月に韓国の情報機関・国家情報院(国情院)は、朝鮮労働党組織指導部が朝鮮人民軍(北朝鮮軍)総政治局の「不純な態度」を問題視し、20年ぶりとなる検閲を進めていると報告。その過程で、黄炳瑞氏や金元弘氏をはじめ、相当数の幹部が処罰されたもようだと明かした。金元弘氏については、自ら身を引く形で、平壌西部の協同農場の農場員になったという説もある。

そして今回の最高人民会議で、金元弘氏と黄炳瑞氏が解任されたと発表された。

一方、黄炳瑞氏の方は、公式行事に顔は出しているようだ。今年2月16日、金正恩氏は父である故金正日総書記の生誕記念日に際して、平壌の錦繍山(クムスサン)太陽宮殿を参拝した。同行した朝鮮労働党の幹部のなかに、黄炳瑞氏らしき人物の写真が朝鮮中央テレビによって公開された。

金元弘氏も黄炳瑞氏も処刑という最悪の事態を逃れることは出来たようだ。とはいえ、2人は金正恩氏の最側近として権勢を振るってきた。それだけに、今回の解任劇は天国から地獄へ落とされたも同然といえるだろう。

(参考記事:昨日の処刑人が、今日は罪人に…北朝鮮の権力中枢「一寸先は闇」]

高英起(コウ・ヨンギ)

>>連載「高英起の無慈悲な編集長日誌」一覧

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記