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韓国・ソウルで12日、大統領直属の政策企画委員会と有力シンクタンク・世宗研究所の共催による「世宗国家戦略フォーラム」が行われ、この場で驚くべき主張が飛び出した。2013年に処刑された金正恩党委員長の叔父・張成沢(チャン・ソンテク)元国防副委員長が、「本当は生きている」というのだ。

発言の主は、同研究所の統一戦略研究室長で、北朝鮮研究の権威のひとりである鄭成長(チョン・ソンジャン)氏だ。同氏によれば、「北朝鮮は張成沢を『処刑した』と発表したが、複数の消息筋は、処刑を目撃した高位幹部はおらず、実際には自宅に軟禁された状態で生存していると主張している」のだという。

実は、張成沢氏の「生存説」は、以前から一部の人々が主張してきた。その多くが、「処刑の目撃者がいない」ということを唯一の根拠としている。

北朝鮮では、処刑されたと思われていた人が実は生きていて、後で復権するといったことがたまにある。2015年にも、一時的に消息の途絶えていた金正恩氏の側近が、ガリガリに痩せた姿ながら、公式メディアに再登場した。

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ただ、こうしたケースでは、北朝鮮は当該人物の処分について何ら発表を行っていなかった。しかし、張成沢氏の場合は違う。朝鮮労働党機関紙の労働新聞は2013年12月13日付で、同氏を被告とした特別軍事裁判に関する長文の記事を掲載。国家転覆陰謀罪により死刑判決が下され、「判決は即時、執行された」と明らかにしている。

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たしかに、北朝鮮での処刑は、高官といえども公開で行われるのが一般的だ。いやむしろ、高官ほど「見せしめ」の効果が高いと言えるかもしれない。

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しかしだからと言って、すべての処刑が公開で行われるとは限らない。ましてや張成沢氏は、金王朝のロイヤルファミリーに名を連ねた人物だ。処刑方法について、特別な判断が働いたとしても不思議ではない。

つまりは、張成沢氏の処刑に関する目撃証言がないからといって、「生きている」ことの証拠にはならないのだ。それに、張成沢氏の処刑後には、彼の「一派」と見なされた膨大な数の人々が粛清・処刑された。その中には公開で殺された人もいる。

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また、張成沢氏の処刑発表は、叔父まで手にかける金正恩氏の非情なイメージを増幅し、張氏と良好な関係にあった中国を怒らせるなど、金正恩体制に多くのマイナスをもたらした。それを考えると、金正恩氏が殺す気もない人物を「殺した」と発表したというのは、道理に合わない。

ここへ来て、韓国の権威あるフォーラムの場においてまで張成沢氏の「生存説」が飛び出すに至った背景には、南北対話の流れを受け、金正恩氏の「悪さ」を相対化したい文在寅政権周辺の雰囲気が確実に作用している。

筆者は、対話そのものは反対しない。しかしそのために、金正恩氏が犯してきた罪を安く見積もるようなことがあってはならないと考える。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記