「韓流アイドル公演」巡り北朝鮮国民の不満が噴出

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韓流アイドルや有名歌手が多数出演し、今月1日と3日に北朝鮮の平壌で行われた韓国の芸術団公演。初日には金正恩党委員長が李雪主(リ・ソルチュ)夫人とともに鑑賞し、その様子は北朝鮮の国営メディアを通じて大々的に報じられた。

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北朝鮮では、南北の和解ムードに期待が高まる一方だが、芸術団の公演を巡っては不満が噴出していると、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。

平安南道(ピョンアンナムド)の情報筋によると、1日の公演の観客として選ばれたのは、一般の平壌市民ではなく、朝鮮労働党中央委員会、内閣の幹部、文化省傘下の各芸術団、芸術映画撮影所の幹部やその家族だけだった。

金正恩氏が訪れる「1号行事」だったため、保安上の理由から、誰彼なく入れるわけにはいかない事情があったようだ。

ところが、3日に鄭周永体育館で行われた公演に招待されたのも、平壌市の幹部と、特権層の大学生だけだったのだ。

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これには平壌のあちこちから不満の声が上がっている。例えば、同じ幹部でも平壌市内中心部ではなく郊外の組織に属している人は、公演が見られなかった。一般庶民は論外だろう。

北朝鮮国民は韓流ドラマや韓国の歌が大好きだが、視聴していることが当局にバレたらたいへんな目に遭う。それを、大っぴらに楽しめる機会を取り上げられたのだから、怒るのも無理はない。

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そもそも平壌は、成分(身分)が良いとされ、思想的に問題がない「選ばれし者」しか住めない特権都市だ。当局は、障碍者などの「問題のある人」の追放を行っている。また、重要行事がある時には市外からの立ち入りを禁止するなど、徹底的に移動と居住の統制を行っている。

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そんな平壌の中にも、地域格差が存在する。市内を流れる大同江の西岸には政府の主要機関が集まり、特権層の住む高級マンションが立ち並ぶ。一方で、大同江の東岸には工場が多く、労働者の街で、普段から差別待遇を強いられている。例えば、西岸には電気が安定供給されるが、東岸には1日に数時間しか電気が来ないといった具合だ。

今回の公演は東岸にある東平壌大劇場で行われたが、地域住民は会場に近づくことすらできなかったという。

情報筋は地方住民の声について言及していないが、平壌市民の不満を聞いたら「平壌に住んでいるクセして何を贅沢な話をしているのだ」との反応を示すに違いない。それほど平壌市民は優遇されているからだ。

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高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記