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来月初めに平壌で開かれる「南北平和協力祈願・南側芸術団平壌公演―春が来る」に韓国のガールズグループ「少女時代」のソヒョンさんや韓国の国民的歌手である趙容弼(チョ・ヨンピル)さんが出演する。

一方、韓国政府が強力に参加を推す、ある韓流スターに対し、北朝鮮側が難色を示しているという。そのスターとは、独特のダンスナンバー「江南(カンナム)スタイル」で世界を席巻したPSY(サイ)さんだ。

女子大生を拷問

平壌で開催予定の公演は、4月の南北首脳会談を前にした交流行事の一環だ。北朝鮮は2月、平昌(ピョンチャン)冬季五輪に合わせて三池淵(サムジヨン)管弦楽団を中心とした約140人からなる芸術団を韓国に派遣した。公演ではひときわグラマラスで目立つ歌手のキム・ジュヒャン氏をセンターに据え、魅惑的かつ激しいダンスを披露した。

(参考記事:金正恩氏の芸術団が見せた驚愕の「妖艶ダンス」のターゲット

ソウルで開かれた公演のフィナーレでは、ソヒョン氏が舞台に上がり、北朝鮮の芸術団団長である玄松月(ヒョン・ソンウォル)氏と熱い抱擁を交わした。韓国の芸術団派遣は、北朝鮮側に対する返礼でもあることから、ソヒョン氏が訪朝するのは自然な流れだろう。

加えて韓国側は、PSYさんの訪朝を望んでいるという。江南スタイルのPVで知られているPSYさんは韓流スターの代表格の一人であり、欧米でも知名度が高い。

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世界的な韓流スターが北朝鮮で公演すれば、韓国としては「交流行事は大成功」であると胸を張れる。しかし、北朝鮮としてはPSYさんをすんなり受け入れることは出来ないようだ。その理由として、やはり「韓流」に対する警戒心がある。

北朝鮮は自国の文化芸術を最高のものとしており、韓国に限らず資本主義社会における文化を「退廃的」と非難する。とりわけ金正恩氏は「韓流」を目の敵にしている。韓流を取り締まるために組織された「109常務」というタスクフォースは、韓流ビデオのファイルを保有していたという容疑だけで、女子大生を拷問し、悲惨な末路に追い込むほどだ。

(参考記事:北朝鮮の女子大生が拷問に耐えきれず選んだ道とは…

ソヒョンさんやチョ・ヨンピルさんも韓流スターに違いないが、2人以上に自由奔放なスタイルが売りのPSYさんに、北朝鮮当局は警戒心を強めているのかもしれない。

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そもそも北朝鮮の庶民達は歌って踊ることが大好きである。伝統的な朝鮮の民謡に合わせた踊りだけでなく、最近では韓流や海外の音楽に合わせて自己流で激しく踊る女性も少なくない。ある脱北者が、「自分勝手ダンス」として紹介してくれた北朝鮮式のダンスは、頭を激しく振るヘッド・バンキング(!)も当たり前で想像以上に激しくクレイジーだ。

ただでさえ娯楽に飢え、ダンスに踊り狂うことが大好きな北朝鮮の庶民なら、PSYさんの江南スタイルに一気に魅了されてもおかしくはない。だからこそ北朝鮮当局は難色を示していると見られる。

そうでなくても、韓流ドラマを通じて北朝鮮国内の「喜び組スキャンダル」が逆輸入されたこともある。その再現は、北朝鮮当局としてはなんとしても避けたい事態だ。

(参考記事:北朝鮮の「喜び組」に新証言…韓国テレビ「最高指導層の夜の奉仕は木蘭組」

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筆者としては、是非ともPSYさんに訪朝してもらい、平壌で「江南スタイル」を披露してほしい。そもそも江南スタイルはソウル特別市江南区に住む富裕層を揶揄した歌だ。PSYさんに触発されて北朝鮮の中から平壌の富裕層を揶揄する「平壌スタイル」などというパロディが産まれれば痛快極まりない。建前の文化交流もいいが、PSYさんを通じて、悪気のない風刺や皮肉の文化が伝わることがあってもいいだろう。いや、それこそが本当の意味での文化交流ではなかろうか。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記