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韓国の道路交通公団が、「北朝鮮当局が国民に安全運転を呼びかけている」との分析を出した。国家が交通秩序の確立に取り組むのは当然のことだが、「クルマ好き」「飛ばし屋」として知られる金正恩党委員長にとって悩ましいことかもしれない。

追い越され激高か

北朝鮮を頻繁に訪れる日本人観光客に平壌や北朝鮮全体の交通事情について質問すると「行く度に車、とりわけタクシーが増えている」との話をよく聞く。ここ数年、北朝鮮の庶民経済がかなり活性化されているのは疑いようがなく、それに伴い交通網が発達しているようだ。

それになにより、最高指導者である金正恩氏自身が大のクルマ好きだ。

(参考記事:金正恩氏の「高級ベンツ」を追い越した北朝鮮軍人の悲惨な末路

平壌市民の間では、「元帥様(金正恩氏)が、夜中にこっそり専用ベンツに乗って平壌市内をドライブしている」という噂が広がったことがある。日頃の執務のストレスを発散させるため、夜な夜な平壌市内をドライブしているのだろうか。

(参考記事:「金正恩氏は深夜の走り屋」説はどうやら本当だった!

自動車が増えるのに従い、事故が増えるのは、ある程度は仕方がない。韓国の道路交通公団は、金正恩時代が幕を開けた直後の2012年から2015年3月までに、北朝鮮国営メディアが外国の交通事故について繰り返し報道したことに注目した。

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基本的に北朝鮮メディアは、自国に都合の悪いことを報道しない。つまり、日本や韓国、そして米国の交通事故を否定的に報道することによって、国内の交通事故問題を矮小化しようとしているというのだ。裏返せば、それだけ交通事故が多発していることになる。

交通事故に限らず、北朝鮮当局の安全問題に関する意識は低い。それどころか、国の体面を守るため、そして安全対策の不備を国内外から非難されないよう、被害規模を隠蔽する悪弊がある。過去にも、橋梁の建設現場で500人が一度に死亡する地獄絵図のような大惨事が起きたにもかかわらず、事故の詳細は一切明らかにされなかった。

(参考記事:【再現ルポ】北朝鮮の橋崩落事故、500人死亡の阿鼻叫喚…人民を死に追いやる「鶴の一声」

韓国の道路交通公団は、北朝鮮で交通事故が増加している原因として、飲酒運転と危険運転を挙げた。とりわけ高級外車に乗る高位級幹部の飲酒運転や危険運転は、たとえ金正恩氏が諫めたとしても、取り締まりは難しいだろうとしている。

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そもそも北朝鮮では自動車運転、さらに飲酒運転やスピードを出して運転することで権威を誇示する悪しき文化がある。平たくいえば、高級車で傍若無人に疾走して幅をきかすと言ったところか。また、取り締まりに引っかかっても賄賂などで処罰から逃れることも横行している。

金正恩氏自身が飲酒運転や危険運転をしているかどうかは不明だ。しかし、最高指導者になる前の2010年初め頃、高速道路で愛車のメルセデスベンツS600を運転していて追い越され、ブチ切れたという噂もある。追い越されて激高するほどクルマの運転が好きなら、自身で安全運転の啓蒙でもしてみてはどうだろうか。

(参考記事:北朝鮮の高速道路で「金正恩氏の愛車」に道を譲らないとどうなるか

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記