北朝鮮の露骨な「日本外し」がはじまった。韓国で公表された慰安婦に関するショッキングな動画にまで言及しながら、日本を「悪者」に仕立てようとしている。どうやら日米韓の枠組みから日本を引きはがそうとしているようだ。

従軍慰安婦虐殺動画

これまで日米韓三カ国は核・ミサイル開発を続ける北朝鮮に対して、歩調を合わせて北朝鮮に対して圧力をかけきた。しかし韓国で開かれた平昌(ピョンチャン)冬季五輪を通じて南北対話が進み、韓国の文在寅大統領は南北首脳会談を行うことを決定した。

これに加えてトランプ米大統領も5月までに米朝首脳会談を行う意向を示した。しかし、金正恩氏が米朝首脳会談を要請したというのは、あくまでも鄭義溶(チョン・ウィヨン)大統領府国家安保室長が訪米し、口頭で伝えたメッセージだ。北朝鮮は米国との対話に関して沈黙を続けている。

金正恩氏が米国との対話を望んでいることは間違いないと見られるが、核問題などで対話にたどり着けるほどの折り合いが付くのかどうかは不透明だ。

こうした中、北朝鮮の官営メディアが、なぜか日本を非難する度合いを強めはじめている。

朝鮮労働党機関紙・労働新聞は3月11日、「日本は絶対に戦犯国の汚名をすすげない」なるタイトルの論評で、韓国で開かれた国際カンファレンスで、慰安婦が虐殺されたとするショッキングな映像が初公開されたことに言及した。

(参考記事:【動画】日本軍に虐殺された朝鮮人従軍慰安婦とされる映像

論評は、映像によって「日帝の野獣さと残忍さが再度全世界に赤裸々に暴露された」とし、安倍政権が「性奴隷被害者を『売春婦』と極悪に冒とくする一方、お金を望んで自発的に行ったと言って、かえって責任を彼女らに転嫁している」などと痛烈に非難した。

これに先立ち、トランプ氏が金正恩氏と会談する意向を示した直後の8日には、「米国宗主の対朝鮮圧迫拍子に合わせて踊らなければならないのが、手先である日本の哀れな立場である」と述べた。日本など眼中にはないと言わんばかりの主張だ。

日本に対する非難が強まる一方、米国に対する論調に微妙な変化が見られる。昨年9月、金正恩氏はトランプ氏に対して声明で、「怖じ気づいた犬がもっと吠え立てるものである」「ごろつき」「老いぼれ」など、とても国家元首が口にすべきでない罵詈雑言で非難した。

(参考記事:金正恩氏「声明」でトランプ氏への怨念をさく裂

つい最近も、米国の制裁に対して「戦争行為と見なす」「対抗措置を講じる」などと強く反発していた。ところが、トランプ氏が会談すると表明してからは、制裁は「不法で反人倫的なもの」などと、ソフトな非難にかわった。

微妙な変化に過ぎないが、これが米朝会談に対する北朝鮮のシグナルの可能性であることも考えられる。

歴史問題、とりわけ従軍慰安婦を取り上げて高まる日本非難と弱まる米国非難。南北首脳会談と米朝会談に向けた「日本外し」と見て間違いない。

そうでなくても、安倍政権は前代未聞の「森友文書改ざん」問題などで厳しい政権運営を強いられている。

難局を打破するためのウルトラCとして「安倍首相電撃訪朝」まで囁かれはじめた。電撃訪朝の実現性はともかく、今の安倍政権が安易に北朝鮮と接近すれば足下を見られるだけだろう。北朝鮮問題をめぐり厳しい立場に置かれた日本だが、米国任せで独自の対北朝鮮政策を講じなかったツケが回ってきたとも言える。

高英起(コウ・ヨンギ)

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1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記