金正恩が手を染めた「人道に対する罪」(6)

2015年春、当時、北朝鮮の玄永哲(ヒョン・ヨンチョル)人民武力部長(国防相)が突如として銃殺された事件は、世界に衝撃を与えた。公開銃殺が当たり前に行われている北朝鮮においても、彼ほどの高官が殺されるのは、そうあることではない。

韓国の国家情報院が国会に報告したところによれば、銃殺には「高射銃」が用いられたという。

「高射銃」とは対空火器の一種で、北朝鮮では14.5mm口径の重機関銃4丁をひとつにまとめた「ZPU-4」が使用されている。14.5mm口径の銃弾は威力が大きく、通常は人間に対してよりも、軽装甲の車両やコンクリート塀などの遮蔽物を貫通・破壊するのに用いられる。

事情通によれば、「1発でも当たれば、人体の一部が吹き飛ぶ。発射速度の速い機関銃で連射されたら、人体は粉々になり原形をとどめない」という。文字通り、人体が「ミンチ」になってしまうのである。

(参考記事:玄永哲氏の銃殺で使用の「高射銃」、人体が跡形もなく吹き飛び…

北朝鮮の公開銃殺では従来、自動小銃AK47が用いられてきた。こちらの口径は高射銃の半分ほどの7.62ミリだが、それでも十分に強力である。金正恩氏の夫人・李雪主(リ・ソルチュ)氏のスキャンダルにからみ、芸術団メンバーらが処刑された際には、これで銃殺された犠牲者たちの亡骸を前に、「見物」させられた元同僚らは文字通り卒倒したという。

(参考記事:金正恩氏「美貌の妻」の「元カレ写真」で殺された北朝鮮の芸術家たち

公開銃殺の方法が、これに輪をかけて残忍な「高射銃」使用に移行したのは、金正恩氏が最高指導者となってからだ。玄永哲氏だけでなく、朝鮮労働党幹部だった李龍河(リ・リョンハ)、張秀吉(チャン・スギル)の両氏もこれで殺された。前述とは別の芸術団元メンバーらが同じように処刑された際には、その現場が衛星画像にとらえられている。

(参考記事:「家族もろとも銃殺」「機関銃で粉々に」…残忍さを増す北朝鮮の粛清現場を衛星画像が確認

北朝鮮における死刑が問題視されている大きな理由は(死刑制度の是非は別として)、死刑囚が果たして公正に裁かれた結果なのか、適正な裁判は行われたのか、という疑問が絶えない点にある。玄永哲氏などは「金正恩氏に口ごたえしただけで殺された」などとする情報すらある。

それに加えて、この残忍な処刑方法である。いかなる場合にも、人間の尊厳は重視されるべきだし、それを故意に傷つけ、さらにその様子を人々に見せつけることで「恐怖による支配」を目指すなどということは、とうてい許されるべきものではない。

今後、金正恩体制と日米韓が対話する機会は増えてくるのかもしれないが、相手の体制がどのように維持されているのかを、決して忘れてはならない。

(参考記事:機関銃でズタズタに…金正日氏に「口封じ」で殺された美人女優の悲劇

高英起(コウ・ヨンギ)

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1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記