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北朝鮮の金正恩党委員長は5日、韓国の文在寅大統領が派遣した特使団と、4時間以上にわたり面談。南北首脳会談開催に関して合意に達した。それに先駆けて金正恩氏は、妹の金与正(キム・ヨジョン)党第1副部長や、金英哲(キム・ヨンチョル)党副委員長兼統一戦線部長を特使として韓国に派遣した。

金与正氏は、実現しなかったものの韓国でペンス米副大統領と接触する予定だったと伝えられており、金英哲氏も韓国高官との会談で、「米国との対話の扉は開かれている」と表明していた。

しかし、こうした対話に積極的と見える姿勢とは裏腹に、金正恩氏は国内に向け、「米帝(アメリカ)と対話するつもりはない」との本音を明かしていたとの情報がある。

恐怖政治がネック

北朝鮮国内にいるデイリーNKの高位情報筋によれば、金正恩氏は先月22日、金英哲氏の韓国派遣と関連し、幹部らに対して自らサインした指示文を伝達。その中で、次のように明かしていたという。

「米帝と対話するつもりはなく、南朝鮮(韓国)が仲介者の役割をするのでもない」
「核は絶対に放棄しない」
「われわれ(北朝鮮)の核とミサイルを認めない勢力とは絶対に妥協せず、許しもしない」
「世界はわが朝鮮を中心に回っているので、心配する必要はない」

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これについて情報筋は、「(北朝鮮が)外向けに対話する姿勢を示したところで、米国が圧迫を強めれば、韓国がいくら手を差し伸べようとしても上手くいかないということを、金正恩はよくわかっているようだ」と指摘。「核を凍結するふりだけして、もらえるものはもらおうとの意図であるとも読み取れる」と、金正恩氏の本音について分析した。

北朝鮮は実際、非核化に向かうことを対話の前提条件としているアメリカに対し、ハッキリと拒否の姿勢を示している。

(参考記事:「前提条件付きの対話、応じない」北朝鮮、米に言明

北朝鮮と米トランプ政権の双方が点で妥協しないならば、金正恩氏が望もうが望むまいが、米朝の本格的な対話は実現しない。

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そもそも北朝鮮は、アメリカの過去の政権から大胆な提案を何度も受けていた。

たとえば2009年7月、オバマ前政権のクリントン国務長官(当時)は北朝鮮に対し次のような提案を行った。

「完全かつ後戻りできない非核化に同意すれば、米国と関係国は北朝鮮に対してインセンティブ・パッケージを与えるつもりだ。これには(米朝)国交正常化が含まれるだろう」

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インセンティブ・パッケージとは、米国が国交正常化、体制保障、経済・エネルギー支援などを、北朝鮮は核開発プログラム、核関連施設はもちろん、ミサイルなどすべての交渉材料をテーブルに載せ、大規模な合意を目指すことを念頭に置いていたものとみられる。

素直に受け止めるなら、北朝鮮にとって悪い提案ではないように思える。

ところが、北朝鮮はこれに乗らなかった。その理由は、人権問題にある。米国にはブッシュ政権時代に出来た、北朝鮮人権法という法律がある。日本人拉致問題も含め、北朝鮮の人権状況が改善されない限り、米国から北朝鮮への人道支援以外の援助を禁止すると定めたものだ。

恐怖政治で国民を支配する北朝鮮の体制にとって、人権問題は体制の根幹に触れるものであり、交渉のテーブルに乗せることなどできるはずがない。

(参考記事:謎に包まれた北朝鮮「公開処刑」の実態…元執行人が証言「死刑囚は鬼の形相で息絶えた」

人権を重視しているようには思えないトランプ大統領ならば、あるいは、人権問題の面でも金正恩党委員長の立場に配慮した提案を行う可能性もあると思われた。ところが最近のトランプ政権は、それとはまったく逆の方向に動いている。

国際社会は、すでに様々な形で北朝鮮の人権侵害を確認しており、今さら「知らなかったこと」にはできない。

(参考記事:「家族もろとも銃殺」「機関銃で粉々に」…残忍さを増す北朝鮮の粛清現場を衛星画像が確認

韓国の文在寅政権は今のところ、こうした北朝鮮の人権問題から目をそらしているが、いずれどこかで、国際社会から真意を問われる可能性がある。

今後、たとえ南北首脳会談が実現したとしても、それで朝鮮半島情勢が一気に好転するわけではないのだ。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記