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米国が北朝鮮を先制攻撃する可能性がしきりに取りざたされるようになったのは、昨年4月からのことだ。この間、何度か「米朝開戦は不可避」との声が上がってきたが、現時点で米朝が戦争に突入する兆候は見られない。もちろん、今後の状況の変化次第で何かが起きる可能性もあるが、現状では、対北攻撃に関する米国の本気度は極めて疑わしい。

普通のトイレが使えない金正恩氏

米国の複数のメディアは、米軍が「ブラッディ・ノーズ(鼻血)」作戦を検討中だと報じた。鼻血作戦とは戦争にならない程度の限定攻撃で、米国の軍事的優位を誇示し、北朝鮮に核開発を放棄させることを目的にした作戦だという。この報道が出ることによって、またもや「開戦不可避」との見方が出ているが、この作戦については米政府からも、存在自体を打ち消す声が出ている。

いずれにせよ、筆者は米国が先制攻撃を仕掛ける可能性は低いと見ている。北朝鮮が事実上の核武装国である限り、米国といえども簡単には手を出せないだろう。とはいえ米朝が緊張状態にある限り、戦争の危機は常に存在する。過去の例を見るまでもなく、突発事態が戦争に発展してしまう例は少なくない。

2015年8月には、北朝鮮と韓国が対峙する軍事境界線の非武装地帯で、北側の仕掛けた地雷が爆発し、韓国軍兵士2人の身体の一部が吹き飛ばされる事件があった。これをきっかけに、南北は一触即発の事態に突入。韓国政府は爆発シーンの衝撃的な動画を公開し、韓国世論は当時の朴槿恵政権の強硬姿勢を後押しした。結果、北朝鮮は実質的に謝罪。衝突は対話によって回避されたが、韓国側の薄氷を踏む勝利だったと言える。

(参考記事:【動画】吹き飛ぶ韓国軍兵士…北朝鮮の地雷が爆発する瞬間

この時の南北衝突の危機を踏まえて、米韓軍の間で取りざたされるようになったのが、有事の際に金正恩党委員長をはじめとする北朝鮮の指導部を排除する「斬首作戦」だ。

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金正恩氏は斬首作戦に恐怖心を抱いたようだ。翌2016年末の時点で韓国の国家情報院(国情院)は、「金正恩党委員長は、身辺に危険が及ぶのではないかという不安感から、行事の日程や場所を急に変更したり、爆発物や毒物の探知機器を海外から取り寄せて警護を大幅に強化したりしている」と分析していた。

斬首作戦が明らかになった直後には、金正恩氏のセキュリティ対策が彼自身のトイレ事情にも及ぶほど徹底しているという話も出てきた。

(参考記事:金正恩氏が一般人と同じトイレを使えない訳

このような金正恩氏の特別なトイレ事情の情報が漏れ伝わったためか、米国の軍事専門家から驚きの提案が出た。

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米ニューヨークに拠点を置くBusiness Insider(ビジネスインサイダー)に、「先制攻撃するなら、金正恩氏の専用トイレを狙え」というコラムが掲載された。ジェフリー・ルイス(Jeffrey Lewis)なる軍事専門家が、米国は金正恩氏に脅威を与えるため、彼専用のトイレを空爆すべきだと提案したのだ。

ルイス氏によると、これは「ブラッディ・ノーズ」作戦を確実に遂行するためにも必要な作戦だという。北朝鮮が公開した写真に金正恩氏専用と見られるのポータブル・トイレが確認できたことから、これをピンポイントで爆撃することによって米国の攻撃能力の正確さを見せつけることができるという主張だ。最初はジョークの類いかと思ったのだが、同氏は本気で提案しているようだ。

ルイス氏は、トイレは「金正恩氏に脅威と屈辱を与える攻撃目標ではあるが、核兵器による報復に踏み切らせるような大規模攻撃とはならないターゲットだ」と主張している。だが、これは北朝鮮をいささか甘く見過ぎではないかとも思う。確かに北朝鮮軍は弱体化しており、軍内部からも米軍には勝てないという本音が漏れ伝わってくる。

(参考記事:「アメリカ軍に勝てるはずない…」北朝鮮の幹部に動揺広がる

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しかし、金正恩氏は「米本土全域がわれわれの核打撃射程圏の中にあり、核のボタンがつねに私の事務室の机の上に置かれている」と豪語している。自分のトイレを爆撃されながら、米国に対して反撃を行わなければ「金正恩は戦えない」――すなわち弱虫であるというレッテルを貼られかねない。

北朝鮮が反撃した場合、韓国のソウル、または日本がターゲットになる可能性が高い。さらには両国に在住する米国人が戦渦に巻き込まれる。米朝開戦の可能性を検証することは必要なことだが、現実的なリスクから目をそらしたままの議論だと、今後の米朝関係を大きく見誤ることになりかねない。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

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