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北朝鮮を訪れた外国人からよく聞かれる感想として、「道を歩く人がやたらに多い」というものがある。首都・平壌以外の地方都市では、電力と燃料の不足で公共交通機関がまともに機能していないからだ。しかし、状況は改善しつつあるようだ。

北朝鮮の首都・平壌の北にある流通の一大拠点、平安南道(ピョンアンナムド)の平城(ピョンソン)市。この町には、平壌市との境界線付近から、衛星科学者通り、平城駅、複数の大学を経て、五里洞(オリドン)までの10キロほどを結ぶトロリーバス(架線から供給される電気で走るバス)がある。

現地のデイリーNK内部情報筋によると、この路線は1983年8月に開通したが、停電があまりにも多いためとても使える代物ではなく、幹部や中産階級はタクシーを、庶民や大学生は自転車を利用したり、徒歩で移動したりするしかなかった。

ところが、昨年末から本数が目に見えて増加し、今年に入ってからは午前8時から午後10時まで「ほぼ正常レベル」(情報筋)の運行となった。停電で30分以上立ち往生することがなくなったとのことだが、それを「ほぼ正常レベル」と呼ぶのだから、それ以前の状況は推して知るべしだ。

市民は大歓迎かと思いきや、意外にも批判の声が多いという。運賃のせいだ。

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「国営旅客事業所が運営するトロリーバスの運賃は、一般労働者の月給の半分にあたる1000北朝鮮ウォン(約14円)。初乗り料金2ドル(約214円)のタクシーよりは安いが、『国定価格なのに市場価格並み』だとの批判も少なくない」(情報筋)

月給の半分と言っても、この運賃が高すぎるというわけではない。北朝鮮の給与体系は、かつての計画経済の名残で極端に安く抑えられている。公共料金もそれに合わせた「国定価格」で定められ、トロリーバスの運賃はたったの5北朝鮮ウォン(約0.07円)だった。しかし、運行正常化と共に現実的な「市場価格」に変更され、200倍の値上げとなったわけだ。

「女性車掌は乗車距離に関係なく大人からは1000北朝鮮ウォン、子どもからはその半額の運賃を徴収する。(大規模な市場がある)市内の流動人口を考えると、国営旅客事業所の儲けは決して少なくないだろう」(情報筋)

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「市場価格」の運賃を乗客から徴収し、国営の機関がカネ儲けに走っていることに対する反発があるようだ。

北朝鮮では、国定価格だった公共料金を、市場価格に変更し大幅値上げする動きが相次いでいる。電気料金を例に挙げると、従来はどれだけ使っても1ヶ月で33北朝鮮ウォン(約0.5円)だったが、今では使った分だけ徴収されるようになり、事実上の値上げとなった。また、無料だった高速道路を有料化するために料金所を設置する工事が進められている。

このような動きは、カネを国庫に吸い上げることにその目的があると言われている。税金を徴収する制度が存在しないため、公共料金を値上げすることで税金の代わりにしているのだ。

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また、こうした値上げについて当局が行っている「民間人に握られていた経済の主導権を国が取り返す」試みの一環と見る向きもある。

国の機関が運営していた公共交通機関のほとんどは、電力や燃料不足で運行できなくなった。その代役として重宝されているのが、民間人がが運営す「ソビ車」と呼ばれるバスやタクシーだ。

北朝鮮当局は、経済制裁により輸出ができなくなった石炭を国内の発電所に回し、電気供給と、公共交通機関の運行を正常化。それによってソビ車から客を奪い取り、運賃収入を確保すると共に、「人民生活の向上に関心を注ぐ金正恩氏」というイメージを植え付けつけるという、一石三鳥を狙っているものと思われる。

金正恩氏と李雪主(リ・ソルチュ)夫人は先日、新型トロリーバスの試乗を行っているが、このパフォーマンスもそのような流れの一環であると見て取れる。