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北朝鮮で2月16日は、故金正日総書記の生誕記念日「光明星節」だ。この日は単なる記念日ではない。金正日氏を神格化するためのねつ造を象徴する日でもある。

1942年2月16日、北朝鮮の聖地・白頭山で空に二重の虹がかかり、光り輝く新星が現れた。後に「21世紀の世界の首領」「百戦百勝の鋼鉄の霊将」などと称えられる金正日氏が生まれる予兆だった──と北朝鮮では伝えられている。もちろん真っ赤な嘘である。

金正日氏は、父・金日成主席が一時的に逃れていたロシア(旧ソ連)のハバロフスクで生まれた。しかし、金日成氏がロシアにいたことを隠すために白頭山を出生地と偽った。また本当の生年は1941年だ。これは金日成氏の誕生年である1912年の末数字「2」に合わせて1942年としたと疑われている。

生存していれば今日で76才を迎えていた金正日氏は、出生からして嘘で塗り固められていた。さらに「生後3週間で歩き、8週間で言葉を発した」「北朝鮮唯一のゴルフコースで11回のホールインワンを記録」など数々の珍伝説が存在する。

失笑を誘うエピソードも多い金正日氏だが、不思議なことに日本では奇妙なスターのような存在だった。彼の一挙手一投足は、報道番組のみならず情報番組、果てはバラエティ番組でも紹介された。歴史書で語られるような独裁者が、リアルタイムで隣国に存在するという奇妙な時代感覚を日本社会全体が感じていたのかもしれない。

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金正日氏は2011年12月に急逝した。それでも2月16日前後になると、「北朝鮮をめぐって何かが起きるのではないか」「北朝鮮が何かをしかけて来るのではないか」と空気が生まれる。金正日氏の誕生日が広く知られているからだろう。

金正日氏をテーマにした作品も数多く存在する。私がつい最近関わったフランス人作家の描くコミック、すなわちバンド・デシネ作品『金正日の誕生日』もその一つだ。

『金正日の誕生日』は、これまでの北朝鮮本とはいささか趣が違う。まずはアートとしてのジャンルを確立しているバンド・デシネで描かれていることが一つ。二つ目は北朝鮮で洗脳教育、思想教育を受けた普通の少年の日常を描きながら北朝鮮が抱える闇をあぶり出していることだ。さらに、主人公の少年が国家やイデオロギーのくびきから解き放たれるプロセスと、それに至るまでの苦難の道のり、そして己が選んだ道を力強く歩んでいく姿を生き生きと描いている。

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バンド・デシネは、社会的な問題を取り上げた作品が数多く発表されているという。20年前の話になるが、私は中朝国境に滞在した。数多くのコチェビ(コッチェビとも言う)と呼ばれる北朝鮮のストリートチルドレンから北朝鮮の惨状について生の声を聞くことができた。そこですべてを知り得たわけではない。しかし当時の北朝鮮の実情に触れた一人として、フランスで彼らを取り上げた作品が創り出されたことには感慨深いものがある。

バンド・デシネ『金正日の誕生日』邦訳版は3月中旬に発刊される予定だ。(高英起/デイリーNKジャパン編集長)