北朝鮮当局が、中国に進出している自国の貿易会社に対して事実上の撤収命令を下したと、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が伝えている。中国が核・ミサイル開発問題を巡り北朝鮮への制裁を強めていることに対する報復措置と思われるが、駐在員の間では困惑が広がっているようだ。

これはつまり、金正恩党委員長の「逆ギレ」とも言える行動であるわけだが、その代償は大きなものとなるだろう。

咸鏡北道(ハムギョンブクト)の情報筋がRFAに語ったところでは「最近、政府から今月23日をもって中国での営業活動を中止せよとの指示が各道に下された」という。北朝鮮の各地方当局は、中国に貿易会社を設立して事業を行い、その収益を行政機関の予算に当ててきた。今回の撤収命令で、今後の資金繰りに重大な影響が出るものと思われる。

もっとも、中国は昨年9月の段階で、国連安全保障理事会の制裁決議2375号の採択(9月12日)から120日以内に北朝鮮企業と合弁企業を閉鎖すると決めていた。これまで、一部はアイドル並みの美貌を備えたウェイトレスで人気だった北朝鮮レストランも、閉店が相次いでいる。

(参考記事:美貌の北朝鮮ウェイトレス、ネットで人気爆発

正恩氏にとって、問題はほかにもある。海外の自由な空気に触れた大量の人々が、一度に帰国することだ。

北朝鮮当局が、海外情報の流入を厳しく統制してきたのは周知のとおりだ。

(参考記事:北朝鮮の女子大生が拷問に耐えきれず選んだ道とは…

当然、帰国した人々への監視は強化されるだろうが、いかんせん数が多すぎる。国内で、これまでにはなかった情報が出回るのは避けられないだろう。

そして帰国者の中には、そうした閉塞感に耐えられず、トラブルを起こしたり脱北を試したりする人も出てくるかもしれない。米国との対立激化を受けて国内の団結をはからねばならないときに、そうした動きは思いもかけぬ波紋を呼ぶ可能性もある。

国際社会の対北制裁の目的は、一義的には経済的に締め上げて核兵器開発を困難にするというものだ。しかしそれとはまったく違うところで、意外な効果を生む可能性もある。

(参考記事:亡命した北朝鮮外交官、「ドラゴンボール」ファンの次男を待っていた「地獄」

高英起(コウ・ヨンギ)

>>連載「高英起の無慈悲な編集長日誌」一覧

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記