正恩氏のお菓子セット、マズすぎで政治事件化

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北朝鮮の歴代の指導者は実に贈り物好きだ。一般庶民には肉や油などのプチ贅沢品を、高級幹部には時計、洋酒などの超贅沢品を贈ることで、心をつなぎとめる。これがいわゆる「贈り物政治」だ。

30年来続く経済的苦境、国際社会の制裁強化などで、かつてほどではないものの、今でも贈り物政治は続いている。その代表格といえるのが、子どもたちに配るお菓子セットだ。かつては子どもたちの憧れだったが、目と舌の肥えた今の北朝鮮の子どもたちには不人気だ。あまりの人気のなさが、政治的事件を巻き起こしてしまった。

慈江道(チャガンド)の情報筋は、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)に事件の概要を語った。

「お菓子セットにコメでできたカンジョン(日本のおこしに近い伝統菓子)が入っていたのだが、昨年平壌市のある小学校の子どもたちがカンジョンを投げてぶつけ合ういたずらをする事件が発生した」(慈江道の情報筋)

首を傾げる向きもいるかもしれないが、災害時に金日成主席、金正日総書記の肖像画を命を捨てて守りきったことが美談とされるような北朝鮮だけあって、最高指導者から贈られたお菓子をオモチャにするのは厳然たる「政治的な事件」だ。

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ちなみに情報筋は、子どもたちや保護者がどのような処罰を受けたかについて言及していないが、一家揃って平壌から追放されてもおかしくない。

(参考記事:北朝鮮の水害被災地で「将軍様の肖像画」守り高校生ら13人死亡

むしろ首を傾げたくなるのは、この事件を受けての当局の対応だ。翌年からはコメのカンジョンではなくエゴマのカンジョンをお菓子セットに入れることにしたというのだ。贈る相手が老人ならまだしも、中国製のスナック菓子に慣れた北朝鮮の子どもたちの好みに合っているとは言い難い。

当局は、昨年の太陽節(金日成氏の生誕記念日)に配ったお菓子セットに、漢方薬ゼリーを入れたことで大ブーイングを受けたが、子どもたちの好みへの関心のなさが表れた「オヤジ的」なチョイスと言えよう。

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エゴマのカンジョンは、子どもだけではなく大人からも大不評だ。咸鏡北道(ハムギョンブクト)の情報筋はそのワケを説明した。

「当局は、光明星節(2月の金正日氏の生誕記念日)に子どもたちに配るプレゼントを生産するために、各世帯から卵1個、エゴマ200グラムを供出させている。これが物価を押し上げてしまった」(咸鏡北道の情報筋)

エゴマ200グラムは、中国人民元で6元(約104円)から8元(約139円)に、卵1個は、北朝鮮ウォンで500ウォン(約7円)から600ウォン(約8.4円)に上がった。

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市場で、キャンディは1キロ6000北朝鮮ウォン(約84円)、菓子は1キロ4000北朝鮮ウォン(約5.6円)で売られているが、供出を求められた品目の合計金額は1万500北朝鮮ウォン(約147円)。つまり、国からもらうより市場で買ったほうが安いのだ。

前述の慈江道の情報筋は「個人業者が作って市場で売っている飴やお菓子の方が、国から受け取るお菓子セットよりよっぽど質がいい」として、人々の間から「もう要らない」という声が上がっていると伝えた。

あまりにも人気がないため、自分で食べるより売りに出す人が多いようだ。

両江道(リャンガンド)のデイリーNK内部情報筋は、白岩(ペガム)市場で、お菓子セットが普通のお菓子の半値の3800北朝鮮ウォン(約53円)で売られていると伝えた。売り払ったことがバレたら政治犯扱いされかねないが、そのリスクを犯してでも売り払うほどマズいということだろうか。

しかし、お菓子セットの配給は今後も続くだろう。保身のために忠誠競争に走る幹部にとって、お菓子セットは手頃な業績づくりだからだ。

ちなみに幹部らは、子どもたちにまずいお菓子を押し付ける一方で、「韓流ドラマで見たチョコマフィン」を、わざわざ秘密のルートを通じて韓国から取り寄せて食べているのである。

(参考記事:北朝鮮の幹部の間で「チョコマフィン」が大流行