北朝鮮女性アイドルの波乱の運命(4)

北朝鮮の金正恩党委員長の妻・李雪主氏がらみの「スキャンダル」によって銀河水(ウナス)管弦楽団(以下、銀河水)が解散させられ、その後継として青峰楽団(以下、青峰)が新設された経緯については前回述べた。

(参考記事:「芸術団虐殺事件」に隠された金正恩夫人の男性スキャンダル

銀河水は解散に至る過程で秘密警察・国家安全保衛部(現国家保衛省)の捜査対象となっていた。これは、処刑された芸術団員らが「政治犯」として扱われたことを意味する。また、2015年4月にも銀河水の元メンバー4人が平壌郊外の「美林(ミリム)ポル」という場所で、凄惨きわまりない殺され方で銃殺されたと伝えられている。

(参考記事:スパイ容疑の芸術家を「機関銃で粉々に」…北朝鮮「人道に対する罪」の実態(1)

こうした事件の舞台となっただけに、楽団は跡形もなく消し去られてもおかしくはなかった。そうなれば、銀河水の元メンバーらは二度と日の目をみることはできなかったはずだ。 しかし、行き場を失った楽団員たちに対する異例の救済措置として青峰が創設されたのである。

脱北者で平壌中枢の人事情報に精通する李潤傑(イ・ユンゴル)北朝鮮戦略情報センター代表によれば、このとき、金正恩氏に青峰の新設を提案して銀河水の元団員らを救済したのは、同氏の異母姉・金雪松(キム・ソルソン)氏だったという。

長らく父・金正日総書記の秘書役を務め、権力中枢で相当なパワーを持っているとされる金雪松氏は、「人材を粗末にしてはいけない」と弟を諭し、これを金正恩氏が受け入れたとされる。

(参考記事:金正恩氏の「美貌の姉」の素顔…画像を世界初公開

このように、北朝鮮のトップレベルの芸術団は、常に最高指導者やその周辺の人々の視界の中に入っている。なぜなら、北朝鮮の芸術団の最大の使命は、金正恩氏の祖父・金日成主席を始祖とする「金王朝」を称えることだからだ。

もちろん、そのような使命を背負わされながらも、純粋に芸術を追究している人々もいる。しかし、いざ権力層、とりわけ最高指導者の名前に傷をつけるような失態を冒せば、容赦なく葬り去られる。

北朝鮮の芸術家たちは、いくら日のあたる立場にいたとしても、権力層のために存在する限り、その運命は「一寸先は闇」なのである。

一方、北朝鮮には最初から存在を秘密にされながら、権力層に仕える集団が存在する。それが「喜び組」だ。喜び組とは最高指導者の身辺補佐をする女性たちの総称である。なかには、夜の特別な奉仕をするグループも存在するとまことしやかに伝えられている。

(参考記事:北朝鮮の「喜び組」に新証言…韓国テレビ「最高指導層の夜の奉仕は木蘭組」

芸術団と喜び組とでは、その表面的な役割は大きく異なる。しかし、粛清のリスクの中で最高指導者を称え続けることを宿命付けられている点で、芸術団のメンバーたちもまた、喜び組と同様に「身も心も捧げる」ことを求められていると言えるのだ。(つづく)

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記