韓国統一省関係者は16日、記者団に対し、北朝鮮が朝鮮戦争などで生き別れになった南北離散家族の再会事業と引き換えに2016年に集団脱北した北朝鮮レストランの女性従業員の送還を要求したことに対し、「送還はできない。政府の立場は明確だ」と述べた。
韓国政府は9日に開かれた南北高位級会談で、旧正月(今年は2月16日)に合わせ離散家族の再会行事を開催するための赤十字会談を提案した。しかし、北朝鮮が女性従業員12人の送還を条件として提示し、この議題では決裂している。
(参考記事:北朝鮮、脱北ウェイトレスたちの顔写真を公開)平昌冬季五輪への北朝鮮の参加を巡って南北対話が進むのは、緊張が激化するよりはよほど望ましい状況と言えるだろう。しかし、ものには順序というものがある。離散家族の再会は南北間に横たわる最大の人道問題のひとつだ。しかも離散家族は高齢化しており、残された時間は少ない。
それにしてもなぜ、北朝鮮はここまで女性従業員らの送還にこだわるのか。年始からの対話攻勢で「ものわかりのよさ」をアピールしている中で、異様に映る部分だ。
その理由として、一部はアイドル並みの美貌で人気の北朝鮮レストランのウェイトレスは、韓国社会でも注目度が高いことが挙げられる。
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万が一にも送還を実現することができたら、北朝鮮当局は彼女らを自国メディアに登場させ、「韓国当局に拉致されました」との「告白」をさせられるのだ。それが当局による強要によるものとわかってはいても、やはり宣伝効果は高いものがあるだろう。そのため北朝鮮は平昌冬季五輪への参加を「人質」に、無理難題をふっかけているのだ。
韓国統一省の関係者は、「女性従業員たちは自らの意思で韓国に入り、本人の希望に沿って順調に定着している」と説明。集団脱北は「韓国当局による拉致」であるとしてきた北朝鮮の主張を打ち消している。
しかし韓国では「民主社会のための弁護士の会」など一部の市民団体が、彼女たちを「1日も早く(北朝鮮の)家族の元へ帰すべきだ」との驚くべき主張を展開してもいる。
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離散家族も女性従業員たちが、拙速な南北対話の犠牲になることなど絶対にあってはいけない。韓国政府は、人道重視の姿勢を堅持することを望む。
高英起(コウ・ヨンギ)
1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 、 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 、 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。