韓国紙・中央日報(電子版)は3日、韓国政府が旧正月の連休(2月15~18日)に、朝鮮戦争などで生き別れになった南北離散家族の再会事業を推進する計画であると伝えた。同政府は、金正恩党委員長が施政方針演説「新年の辞」で南北関係の改善を打ち出したことで、北朝鮮が韓国側の呼びかけに応じる可能性は大であると見ているという。

アイドル並みの美貌

韓国政府は北朝鮮に対し、板門店で9日に南北高位級会談を開催することを提案している。

離散家族は高齢化しており、人道的見地からも再会事業は早期に実現することが望ましい。ただ、北朝鮮側が積極的に応じるか、疑わしい部分もある。

というのも、北朝鮮は再会事業を行うに当たり、韓国政府が実行困難な前提条件を付けているためだ。

昨年6月7日、北朝鮮の対韓国機関・祖国平和統一委員会のキム・ヨンチョル氏が平壌でAFP通信のインタビューに応じ、2016年4月に集団脱北した北朝鮮レストランの女性従業員12人と、北朝鮮への帰国を望む脱北女性キム・リョンヒさんの送還を韓国政府に求め、「すぐに送還しなければ(韓国との)いかなる形の人道的協力も決して行わない。これが我々の確固たる方針だ」と述べたのだ。

一部はアイドル並みの美貌で人気の北朝鮮レストランのウェイトレスは、韓国社会でも注目度が高い。

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そんな彼女らを、韓国政府が北朝鮮に送還する可能性はまずない。そんなことをしたら、彼女らは北朝鮮当局によって「告白会見」を強制され、「自分たちは韓国の朴槿恵政権に拉致された」などと言わされることだろう。そうなったら、金正恩体制に不満を抱く北朝鮮国民も、韓国政府に対してまったく信頼を寄せなくなるかもしれない。

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しかし文在寅政権が、北朝鮮との対話の機会を渇望しているのも事実だ。それに韓国では「民主社会のための弁護士の会」など一部の市民団体が、彼女たちを「1日も早く(北朝鮮の)家族の元へ帰すべきだ」との驚くべき主張を展開してもいる。

(参考記事:脱北「美人ウェイトレス」を北朝鮮に送り返せ! 韓国社会で意外な声

北朝鮮の金正恩党委員長は、韓国からの南北離散家族の再会事業の提案を受け、これに「前向きなフリ」をすることで、文在寅政権を「対話実現」と「脱北者保護」の間で板挟みにすることができるのである。

そして、韓国側が彼女たちの送還に応じずとも、北朝鮮が失うものはない。引き換えに、いくらでも別の要求を突きつけることができるからだ。これは、 北朝鮮による一種の人質外交である。

韓国政府は果たして、北朝鮮のゴリ押しにどのように対応するのだろうか。

高英起(コウ・ヨンギ)

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1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記