吹き飛ぶ韓国軍兵士

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北朝鮮の金正恩党委員長が不気味な自信と余裕を見せている。1月1日、施政方針演説に当たる「新年の辞」で、「国家核戦力完成の歴史的大業を成し遂げた」と強調した。

それだけでなく、「米本土全域がわれわれの核打撃射程圏の中にあり、核のボタンがつねに私の事務室の机の上に置かれている」と述べるなど、米国と対等な立場を強調した。

普通のトイレを使えない

金正恩氏の強気な物言いは毎度のことだが、今回はいつも以上の自信と余裕を感じさせる。2017年、米国は原子力空母を北朝鮮近海に繰り返し派遣するなど「最大限の圧力」を加えた。それを強硬姿勢のまま乗り切ったことが、金正恩氏に自信を深めさせているのだろうか。

一方、金正恩氏が米国の圧力に微妙に神経を尖らせていたことを物語るデータもある。金正恩氏の2017年(1月1日〜12月28日)の公開活動は93回で初の2ケタとなり、金正恩体制が発足してから最も少なくなったという分析結果を明らかにした。

金正恩氏の公開活動が減少するひとつのきっかけになったと考えられるのが、2015年8月に北朝鮮と韓国が対峙する軍事境界線の非武装地帯で起きた「地雷爆発事件」だ。

(参考記事:【動画】吹き飛ぶ韓国軍兵士…北朝鮮の地雷が爆発する瞬間

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北朝鮮と韓国が対峙する軍事境界線の非武装地帯で、北側の仕掛けた地雷が爆発し、韓国軍兵士2人の身体の一部が吹き飛ばされる事件が発生した。この事件をきっかけに、南北は一触即発の事態に突入する。

幸い対話によって衝突は回避されたが、この時の経験を踏まえて、米韓軍の間で有事の際に北朝鮮の指導部を排除する「斬首作戦」が取り沙汰されるようになった。

2016年末の時点で韓国の国家情報院(国情院)は、「金正恩党委員長は、身辺に危険が及ぶのではないかという不安感から、行事の日程や場所を急に変更したり、爆発物、毒物探知装置を海外から取り寄せて警護を大幅に強化したりしている」と分析していた。金正恩氏は従来から、普通のトイレを使えないなど行動の制約が多いとされるが、そのうえ警護が強化され、相当なストレスをためたことだろう。

(参考記事:金正恩氏が一般人と同じトイレを使えない訳

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とはいえ、金正恩氏は米国を恐れてばかりいたわけではない。2017年の公開活動のうち軍関連は41回で、これまでのどの年よりも多かった。割合で見ると43%で初めて40%を超えた。

また金正恩党委員長は、重要な弾道ミサイル試射の現場には必ず自ら立ち会っている。これは、北朝鮮のミサイル発射の動向を常時監視する米軍の偵察衛星に、自らの姿をさらしているということだ。ステルス戦闘機などで襲撃されたら、殺されてしまう可能性が高い。

金正恩氏はこうした修羅場をくぐりながら、米国に対して自信と余裕を深めているようだ。客観的に見ても、北朝鮮の核問題をめぐっては米国だけでなく国際社会も手詰まり状態に焦燥感を募らせている。しかし、経済制裁をはじめとする国際社会の圧力はボディブローのように効いている。核開発の裏で常態化している悲惨な人権侵害に対する国際社会の非難は高まるばかりだ。

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核兵器を除けば、北朝鮮の軍事力は惨憺たるありさまだ。

(参考記事:必死の医療陣、巨大な寄生虫…亡命兵士「手術動画」が北朝鮮国民に与える衝撃

金正恩氏がいくら自信と余裕を見せようと、絶対的に有利な立場にいるわけでもなく、いずれかその自信を打ち砕かれる時が来るだろう。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

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