2017年の北朝鮮を振り返る(3)

韓国軍当局によると、今年は計9回にわたり15人の北朝鮮国民が、北朝鮮と米韓軍が対峙する最前線の警戒をかいくぐって韓国に亡命した。昨年の亡命者が5人だったのに比べ3倍に増えた。今年の亡命者のうち4人は軍人である(昨年は1人)。

とくに衝撃的だったのは、11月13日の兵士亡命時に起きた銃撃事件だ。このとき、亡命した北朝鮮兵士は追っ手の銃撃を浴び、瀕死の重傷を負った。続いて今月21日に起きた兵士亡命に際しても、北朝鮮と韓国は交戦には至らなかったにせよ、双方が発砲する場面があった。

今後もこうしたことが続くと、不測の事態から緊張がエスカレートし、戦争の危機にまで発展する可能性がある。実際、2015年8月には北朝鮮側が自軍兵士の脱走防止用に仕掛けた地雷に韓国軍兵士が接触し、身体の一部を吹き飛ばされる重傷を負った。これがきっかけとなり、南北には「戦争前夜」の空気が漂ったのだ。

(参考記事:【動画】吹き飛ぶ韓国軍兵士…北朝鮮の地雷が爆発する瞬間

北朝鮮兵士の亡命との関連でもうひとつ衝撃的だったのは、銃撃を受け瀕死の状態に陥った兵士が手術を受けた際、腸内から大量の寄生虫が出てきたことだ。兵士がそうなってしまった原因は、北朝鮮の農業政策の失敗にあると思われる。

(参考記事:北朝鮮の亡命兵士の腸が寄生虫だらけになった理由

そして、この兵士の手術の際の動画が米CNNによって公開されたことは、今後、金正恩体制に少なからずダメージを与えるだろう。

(参考記事:必死の医療陣、巨大な寄生虫…亡命兵士「手術動画」が北朝鮮国民に与える衝撃

この動画は、北朝鮮国内に密かに持ち込まれ、一般国民の間で広く視聴される可能性が高い。これを見たとき、北朝鮮の人々はどれほどのショックを受けるだろうか。「あんなものが、もしかしたら自分や家族の体内にも……」と思ったら、居ても立っても居られなくなるはずだ。

北朝鮮の多くの人々は、理不尽な体制に疑問を持ち、経済難に苦しみながらも、与えられた条件の下で自分と家族が生き延びるための道を必死に探り、今まで耐えしのいできた。だが、自分の体が内部から冒されていると知り、その責任が体制にあると知ったら、思想や政治的な意見の次元を離れ、生理的な次元で体制を受容できなくなるのではないか。

それが人々をどのような行動に駆り立てるかはわからないが、金正恩体制への北朝鮮国民の嫌悪感は、いよいよ本物になると思われる。

高英起(コウ・ヨンギ)

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1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記