北朝鮮国営の朝鮮中央通信は24日、金正恩党委員長が23日の朝鮮労働党第5回細胞委員長大会で「歴史的な演説」を行ったとして、その内容を長文にわたって伝えた。

演説のタイトルは、「党細胞を忠誠の細胞、党政策貫徹の前衛隊伍に強化しよう」というものだ。これを聞いた大会参加者たちは、背中に冷たいものを感じたに違いない。

朝鮮労働党の組織構造は、まず党中央委員会があり、その下に道の党、市・郡の党、その下に初級党委員会や部門党委員会があり、いちばん下に党細胞委員会がある。職場や地域に置かれた、党の最小単位である。

朝鮮中央通信は、金正恩氏が党細胞委員会の責任者たちを前に、次のように述べたとしている。

「朝鮮労働党委員長同志は、現時期、朝鮮式社会主義を守るうえで害毒的作用をする非社会主義的現象について指摘し、その原因は党組織と勤労者団体組織、活動家たちが党員と勤労者の間で教育活動をねばり強く行わず、思想闘争の強度を高めないところにあると強調した。 朝鮮労働党委員長同志は、非社会主義的現象を根絶するための一大革命的な攻勢を繰り広げることについて指摘し、党員と勤労者を教育して革命家に育てる拠点であり、朝鮮式社会主義を守る末端革命前哨である党細胞から闘争を繰り広げることについて指摘した」

ポイントとなるのは、「非社会主義現象」という言葉と、それを「根絶するための一大革命的な攻勢を繰り広げる」とした宣言だ。

非社会主義現象とは、文字通り北朝鮮が標榜する社会主義の気風を乱すあらゆる行為を指す。たとえば賭博、売買春、違法薬物の密売や乱用、韓国など外国のドラマ・映画・音楽の視聴、ヤミ金融、宗教を含む迷信などなどだ。もちろん、その他の刑事事犯も含まれる。

しかし実際のところ、北朝鮮には社会主義の気風などほとんど残っていない。1990年代に計画経済と配給システムが崩壊したために、その後はなし崩し的に市場経済化が進行。その過程で、売買春や薬物の乱用が、資本主義国も真っ青な勢いで蔓延した。

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そして、そのような社会悪の蔓延に乗っかる形で金儲けに走ったのが、党や司法機関の官僚たちなのである。世界最悪の監視国家である北朝鮮では、彼らのお目こぼしなくして「悪事」を働くことはできない。しかしそれは、彼らと癒着すれば何でもできることを意味する。

さらにその背景には、北朝鮮が「税金のない国」という、非現実的なユートピアを標榜してきた歴史がある。税金を徴収しないがゆえに、国家は官僚や軍人にじゅうぶんな給与を保証できない。そのため官僚や軍人は、自らの権限をフルに活用してワイロを集め、ときには犯罪組織と癒着して生計を立てるのだ。

つまりは、党官僚の腐敗の責任は国家にあるわけで、まず襟を正すべきは金正恩氏であるとも言える。しかし、金正恩氏はそれよりも先に、党の末端組織を「鍛えなおす」やり方を選択したようだ。

果たして、「非社会主義現象を根絶するための一大革命的な攻勢」とはどのようなものになるのか。過去の例から推し量るなら、無慈悲な取り締まりと公開処刑に象徴される「見せしめ」である。

(参考記事:謎に包まれた北朝鮮「公開処刑」の実態…元執行人が証言「死刑囚は鬼の形相で息絶えた」

ただ、そのような強権的な取り締まりはこれまでも行われているが、結局のところ、効果を上げるには至っていない。それでも、そのような弥縫策を繰り返さざるを得ないほど、北朝鮮社会の腐敗が深刻なものになっているのかもしれない。

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高英起(コウ・ヨンギ)

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1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記