北朝鮮の家庭では日本と同じように、年初に1年の目標を語り合う。かつては「革命の完遂」などの言葉が出ていたようだが、市場経済化が進んだ今では「物欲」が先行しているもようだ。

例えば、デイリーNKのカン・ミジン記者と通話した平壌市の大城(テソン)区域住民は、娘からこんなことを言われたという。

「お父さん、お母さん、今年の我が家の目標はソーラーパネルを買うことで決まりだからね。大学入試でいろいろ物いりだろうけど、私も節約して頑張るから」

国際社会の制裁により輸出できなくなった石炭が、国内の火力発電所に回されたことで、やや改善したと言われる北朝鮮の電力事情。しかし、24時間電気が使える生活は夢のまた夢なのだ。

(参考記事:北朝鮮の庶民の夢「ソーラーパネルを買って韓流ドラマを見たい」

別の平壌市民は、昨年秋に新居に引っ越したため今年は節約生活を送るつもりだったが、想定外の収入で余裕ができ、壁掛け液晶テレビを買った。妻がとても喜び、翌日からおかずが少し贅沢なものになったという。一家の財布を握っている女性は、夫に感謝の気持ちを表すため、普段とは違ったごちそうを並べるのだ。

(参考記事:北朝鮮「金持ち女性」たちの密かな楽しみ…お国の指示もそっちのけ

北朝鮮の人々の「1年の目標」として人気の商品は、上記のソーラーパネル、テレビ以外にも冷蔵庫、自転車、綿入りのジャンパーなどがある。

平壌、平安南道(ピョンアンナムド)の平城(ピョンソン)、咸鏡北道の清津(チョンジン)、両江道(リャンガンド)の恵山(ヘサン)での価格は次のとおりだ。

  1. 冷蔵庫:300ドル〜450ドル(約3万4,000円〜5万1,000円)
  2. テレビ:60ドル〜105ドル(約6,800円〜1万2,000円)
  3. 電動アシスト自転車:54万北朝鮮ウォン〜61万北朝鮮ウォン(約7,000円〜8,000円)
  4. 自転車:30万北朝鮮ウォン〜84万北朝鮮ウォン(約3,900円〜1万1,000円)
  5. 綿入りの服:5万北朝鮮ウォン〜350万北朝鮮ウォン(約650円〜4万5,000円)

もちろん、北朝鮮のすべての人がこんな贅沢品を買えるわけではない。上述の平壌市民が住むエリアには、金日成主席と金正日総書記の遺体が安置された錦繍山(クムスサン)太陽宮殿、北朝鮮の最高学府の金日成総合大学などがあり、相当に恵まれた階層しか住むことはできない。

軍人は悲惨

また、ほとんどの人が平等に貧しかった計画経済の時代とは異なり、市場経済化の進展に伴い、貧富の差が拡大している。

ソウル大学が2015年にソウル在住の脱北者113人を対象に調査した結果によると、75.3%が商売を含めた市場での活動に関わっていたと答え、月収は「10万北朝鮮ウォンから50万北朝鮮ウォン」が43人、「50万〜100万北朝鮮ウォン」が36人、「100万北朝鮮ウォン以上」が34人だった。(※100万北朝鮮ウォンは約1万3000円)

また、世界食糧計画(WFP)の2013年7月の調査によると、北朝鮮国民の66%が個人耕作地を持ち、70%が家畜を飼い、89%が山菜の採取を行っている。自家消費するものもあるが、余剰分は市場で売って現金収入を得る。

今や北朝鮮も、能力と働きぶり、コネなどによって収入が決まる社会となったのだ。

(参考記事:「牛乳風呂」をたのしむ北朝鮮の上流階級)

一方、制裁下においてもそこそこの暮らしを営んでいる民間人とは異なり、苦しい生活を強いられているのが朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の兵士たちだ。国からの配給があてにならないのに、部隊に縛り付けられ現金収入を得るための商売ができないからだ。

(参考記事:必死の医療陣、巨大な寄生虫…亡命兵士「手術動画」が北朝鮮国民に与える衝撃

両江道(リャンガンド)のデイリーNK内部情報筋によると、今月1日から毎年恒例の冬期訓練が始まった。金正恩氏の訓練開始命令書が伝達され、「全ての軍人は最高司令官同志(金正恩氏)の冬期訓練方針を徹底貫徹することに関連した思想戦と闘志戦を余すところなく発揮し、全員が青年英雄になろう」という内容の政治学習があったが、兵士たちの反応は非常に鈍かったという。

それもそのはず、毎年訓練の初日には銀シャリに肉のたっぷり入ったスープが出されるのだが、今年はそれが出ず、士気がダダ下がりなのだ。通常は地域住民や工場、企業所から調達した物資でごちそうが出されるのだが、そのシステムがうまく働かなくなっているもようだ。

ちなみに韓国国防省の調査によると、朝鮮人民軍の末端兵士の月給はたったの700北朝鮮ウォン(約9円)。一番安い30万北朝鮮ウォンの自転車を買うには、36年分の月給が必要になる計算だ。

高英起(コウ・ヨンギ)

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1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記