人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面

北朝鮮では、10月から来年実施予定の人口調査(国勢調査)に向けて示範調査(予備調査)が始まった。国レベルでも末端の行政レベルでも、この調査を小銭稼ぎに利用しているのではないかと、庶民が疑いの目を向けている。

平壌のデイリーNK内部情報筋によると、平壌市内の一部地域と、平安南道(ピョンアンナムド)の徳川(トクチョン)市で10月中旬、突然人口調査が開始された。

朝鮮労働党機関紙の労働新聞は今年3月11日の対談形式の記事で、中央統計局のウォン・ヒョク副局長の次のような言葉を伝えている。

「10月1日に、人口一斉調査のための全国的な示範調査を行なうことになっており、各級人民委員会(道庁や市役所)や人民保安機関(警察、秘密警察)はその準備に力を入れていて、8月までには完了する」

記事によると、北朝鮮の人口調査とは、自国領土内の住民、世帯の数を把握するもので、研修を受けた専門調査員が訪問して調査を行う。得られた資料は人民生活を向上させるための党と国家の政策や社会経済発展計画の作成と評価に使用する。その例として、学童の制服生産、薪や飲料水、電気、商品、食料品の生産計画を挙げている。

人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面

人口調査はこれまでに1993年と2008年に行われており、前回調査から10年となる2018年に行なうことになった。

(参考記事: 10月実施の北朝鮮の人口調査に調査員14万人動員

調査の難しいところとしてウォン副局長は「行政体系が編成できておらず、住民の自由移動が多く、人びとはこの事業に切実な利害関係がないことで、調査の難しさを感じ、その正確性も保障されていない」と答えた。つまり、市場経済化に伴い、それまではなかった人口の移動が増えていることと、行政機関がそれに対応できていないこと、住民が非協力的であることを、調査を司る国の機関の幹部が認めた形だ。

また、前出の情報筋は、今回の調査を、人民班(町内会)の班長が小銭稼ぎの機会として利用していると情報筋は語った。

人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面

班長は、調査費用として1世帯あたり400北朝鮮ウォン(約5円)を徴収し、横領しているというのだ。人民班1つあたりの世帯数は多くても30世帯。全世帯から集めても、コメ2キロほどの額にしかならないが、言うことを聞かない人には、細かいことにケチをつけたり、さっさと書類を書いて出せと凄んだりしているという。

「小銭稼ぎ」は末端の行政レベルに留まらない。

国連人口基金(UNFPA)は今年7月、5年の期間と1150万ドルの予算をかけて、北朝鮮の人口調査を含めた支援を行なうプロジェクトを発表した。北朝鮮外務省のハン・サンリョル次官は、米ニューヨークのUNFPA本部を訪れ、調査費用の支援を要請した。

人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面

これを受け、UNFPAは世界各国に支援を要請し、韓国政府は、統一省の南北協力基金から調査費600万ドルの供出を検討することにした。

これを見たある脱北者は、北朝鮮は人口調査をネタに国際社会から支援金を引き出そうとしていると指摘している。人民保安省(警察庁)は国民一人ひとりの登録情報を記録した文書を持っており、各地域の保安署(警察署)が持っている文書をかき集めれば、改めて調査をせずともいくらでも数字を把握できる、と言うのだ。

しかし、違う見方も存在する。

北朝鮮は1950年代末から10年かけて、住民全ての過去を調査、記録する住民了解(調査)事業を行い、それを元に住民登録文書を作成した。韓国の月刊朝鮮は2007年、北朝鮮社会安全部(現人民保安省)出版社が1993年に発行した「住民登録事業参考書」を入手している。それによると、すべての国民は大きく「基本群衆」「複雑な群衆」「敵対階級残余分子」の3つに分けられ、さらに56の「出身成分」に細かく分類されている。

出身成分とは、先祖が1950年代以前にどのような職業を持っていたかを示すものだ。またこの他に、本人の職業の中で最も経歴の長いものを示す「社会成分」と呼ばれる指標がある。いずれも、北朝鮮の唯一領導体系の保衛を目的として設けられたもので、極秘扱いだ。このような極秘資料を、単なる人口調査に使うのは無理があるというのだ。

(参考記事:北朝鮮社会を支配する「出身成分」という人権侵害

一方で、出身成分(身分)の悪い人が、子どもを大学に進学させたり、幹部に出世させたりするために、住民登録課の課長などにワイロを掴ませ、住民登録を抹消して、新しいものに作り変える行為が横行している。このような体制維持の基本となる重要資料ですらカネで書き換えられるほど拝金主義が横行しているということだ。

(関連記事:「身分ロンダリング」で生き延びるのに必死な脱北者家族

さらに、北朝鮮は選挙を通じて、住民登録の整理事業を行い、投票しなかった人を監視対象にしているが、人口調査もそのような機会に利用されるであろうとの見方もある。

このような動きがあると、商売のため、他地方に長期間にわたり出かけている人は大慌てで自宅に戻る必要が出てくる。留守にしていたという理由だけで脱北者扱いされ、政治的な不利益をこうむりかねないからだ。

(参考記事:北朝鮮、代議員選挙に住民から不満の声…「候補者知らず、選挙カーがうるさい」