北朝鮮で「出身成分」という言葉がある。いわゆる「身分」を指す言葉であり、出身成分に基づいた「身分制度」が今でも現存する。当局はその存在を決して認めようとしないが、多くの脱北者の証言により、その存在は明らかになっている。
土台或いは成分と呼ばれるこの身分は、北朝鮮に暮らす人に一生ついてまわる。就職、進学での差別的な扱いはもちろんのこと、政治集会などでも自分の身分を思い知らされる。
例えば、平壌の金日成広場に大勢の市民を動員して行われる「群衆大会」。先着順に適当に並べばいいというわけではない。立ち位置は、出身成分に従って一人一人が、細かく決められている。
両江道(リャンガンド)の住民が米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)に語ったところによると、「前から何列目、右から何番目」と、立ち位置が決められていて、勝手に移動することはできないという。
細かく決められていることから、欠席するとすぐに発覚し、後に厳しく叱責されることから、よほどの大病を患わない限りは這ってでも行かなければならない。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面また、当局が把握している自分の成分は知らない人でも、割り振られた立ち位置でなんとなくわかってしまう。金正第1書記が立つ「主席壇」の真正面は労働党員など「核心階層」が割り振られる。その後ろに「動揺階層」、金正恩氏から一番遠いところに立たされるのは「敵対階層」だ。
平壌の金日成広場での群衆集会のみならず、様々な政治行事で土台が問われる。咸鏡南道(ハムギョンナムド)の情報筋によると、金日成氏、金正日氏の銅像に花束を捧げる儀式では、その順番や花の大きさも成分によって決められる。
「敵対階層」に分類されている人の順番は後回しになり、忠誠心を示そうと大きな花束を捧げようとしても許されない。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面こうした北朝鮮当局のこのようなやり方に対して情報筋は「何時間も続く退屈な行事だが、後ろの方にいるとさほど緊張を強いられることもなく楽だ」とする一方で「国から見捨てられているので、気分のいいものではない」と述べた。
米国ワシントンの人権組織「北朝鮮人権委員会」の報告書によると、動揺階層、敵対階層に分類されている人は北朝鮮全人口の72%に達する。
市場経済の発展により、財力を手にしたトンジュ(金主、新興富裕層)が、成分の壁を乗り越えるようになりつつあり、以前ほどは成分を厳しく問われないようになったようだ。しかし、身分制度が公式に廃止されたわけではない。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面「人民は皆平等」であるはずの社会主義国、北朝鮮の時代錯誤な身分制度は、人権侵害の根源だとして、国際社会からも批判されている。