北朝鮮が韓国を「統一の対象となる同民族」から「敵対的な二国家」へと位置づけ直して以降、対韓国政策の前面に立つ存在として金与正氏の存在感は際立っている。
朝鮮労働党副部長として公式の肩書きは控えめだが、韓国や米国を名指しで非難する談話を相次いで発表し、事実上の「対韓スポークスパーソン」となった。軍部の声明を除けば、対韓言及の大半を同氏が担う現状は、権力構造の変化を示唆している。
背景にあるのは、金正恩総書記が打ち出した「二国家論」に基づく対南路線の全面転換だ。韓国をもはや同胞とみなさず、制度と体制の異なる敵対国家と規定することで、対話や融和の余地を封じ、軍事的緊張を常態化させる。この路線を内外に徹底させる役割を担うのが、血統的正統性を備え、発信力に優れる金与正氏である。
同氏の発言は、単なる挑発にとどまらず、北朝鮮の戦略的意図を映し出す。韓国社会の分断をあおり、政権交代期の不確実性を突く一方、米韓同盟への不信を植え付ける狙いが透ける。時に過激な言辞を用いるのも、軍事行動に踏み切る前段階として、心理的圧力を最大化する計算とみられる。
(参考記事:「妹じゃなきゃ処刑だ」金正恩と与正の微妙な権力均衡と”後継者ジュエ”登場の衝撃)
こうした役割が続く限り、金与正氏の権威は党内外で一層高まるだろう。対南政策という「主戦場」を一手に統括することで、実務と象徴の両面で不可欠な存在となるからだ。とりわけ後継問題がくすぶる中、強硬姿勢を体現する姿は、体制の結束を演出する装置としても機能する。
もっとも、その権威は金正恩氏の戦略に強く依存している。対韓緊張が緩和局面に転じれば、表舞台から退く可能性も否定できない。だが少なくとも当面、韓国が「主敵」であり続ける限り、金与正氏は北朝鮮の対外メッセージを体現する「強硬な顔」として、影響力を拡大し続けるだろう。
