北朝鮮の金正恩国務委員長は、1月8日に42歳の誕生日を迎えた。しかし今年も、北朝鮮の官営メディアは完全に沈黙した。祝日指定はおろか、「誕生日」という言葉すら出てこない。執権15年目に入った北朝鮮の最高指導者としては、異例中の異例だ。

なぜ、ここまで誕生日を隠し続けるのか。その裏には、大阪・鶴橋生まれで在日朝鮮人帰国者の実母、高容姫(コ・ヨンヒ)の影が見え隠れする。

金正恩氏が誕生日を明かせない事情は、外交の舞台でも露骨に表れている。象徴的なのが、ロシアのプーチン大統領との祝電をめぐる不自然な対応だ。金正恩氏は誕生日当日、プーチン氏に答礼書簡を送り、「祝賀の手紙を受け取った」と明かした。しかし、それが誕生日祝いであることは最後まで伏せた。祝電そのものは公開せず、返書だけを報道するという奇妙な演出である。「祝われた事実」は示すが、「何を祝われたのか」は隠す。北朝鮮らしい、過剰なまでの情報操作だ。

内部では、誕生日に忠誠誓約集会を開いたり、贈り物を捧げたりと、非公式には祝われているとされる。それでも表に出せない。表向きには「個人崇拝の行き過ぎを避けるため」と説明されることもあるが、説得力は弱い。金日成主席と金正日国防委員長の生誕記念日が、それぞれ「太陽節」「光明星節」として大々的な国家的祝祭に利用されてきたことを考えれば、なおさらだ。

北朝鮮専門家の間では、金正恩氏が誕生日を公表しないのは、出生の秘密が明らかになり、金一族支配の正統性が揺らぐことを恐れているためだとの見方が多い。実際、就任から15年を経ても「誕生神話」を完成させられない最高指導者は、歴史的にも極めて異例だ。

一方で、金日成・金正日両氏の生誕記念行事も年々縮小しており、金正恩氏が祝賀そのものに距離を置いている姿勢が目立つ。自らを祝えない以上、父や祖父も祝わない――そんな意趣返しとも読み取れる。

いずれにせよ、「実母を語れない」という出自の弱点は解消されていない。金正恩氏自身が、血統と出自に過度に依存してきた北朝鮮体制の歪んだ伝統に、皮肉にも縛られ続けていると言えるだろう。