近年、東アジアの安全保障環境は急速に変化している。その中心にあるのが、中国の台頭と、それに伴う軍事的自信の高まりだ。特に、中国海軍機による自衛隊機へのレーダー照射問題は、偶発的な挑発ではなく、構造的な力の変化を象徴するものとして注目されている。

南アに会社設立し欧米退役パイロット招聘

中国海軍機による自衛隊哨戒機へのレーダー照射は、単なる現場レベルの過失とみるには不自然な点が多い。高い緊張状態のなかで、照射は「敵対的意志の表明」として国際的に解釈される行為であり、慎重な交戦規範を持つ各国の軍では厳格に管理されている。にもかかわらず、中国海軍機はその一線を越えた。この背景には、近年の軍事力強化と、それに裏打ちされた「自国は抑止されない」という新たな自信が透けて見える。

ここ十数年で、中国は空母運用能力や第五世代戦闘機の開発など航空戦力において目覚ましい進展を遂げた。従来、「陸地防衛中心」とされた人民解放軍の航空・海軍が、いまや広域海域でのプレゼンスを主張する段階へと移行している。レーダー照射という行為も、こうした「空からの主張」の一部として位置づけられる可能性がある。

さらに、国内におけるナショナリズムと技術的自負が軍の行動様式にも影響を与えている。中国の国営メディアは、こうした対外的強硬姿勢を「国家主権の正当な防衛」として称える論調を強めており、それが現場レベルの行動を後押しする構造も見逃せない。結果として、軍人たちは「強い中国」を実践で示すことを求められ、抑制的態度よりも果敢な行動を優先する傾向が生まれている。

一方、周辺諸国はこうした行動を冷静に受け止めつつも、現実的な対応強化を進めている。日本は警戒監視能力の向上に加え、米国やオーストラリアとの連携を深化させている。レーダー照射事件は、単なる偶発事案ではなく、地域の「新たな常態(ニュー・ノーマル)」を象徴する出来事として位置づけられつつある。

中国空軍の急速な実戦力向上の裏には、単なる装備や技術の進歩だけでなく、人材育成における「質的転換」がある。過去、中国はタイ空軍との模擬戦闘、特にBVR(Beyond Visual Range:視程外戦闘)で苦戦を強いられ、自らの戦術・訓練体系の限界を痛感したと言われる。その反省から、中国は海外経験を持つ専門的な操縦士を積極的に必要とするようになった。

(参考記事:かつてタイ空軍に「惨敗」した中国空軍…空自との実力差は?

2022年、中国は南アフリカに「Test Flying Academy of South Africa(TFASA)」を設立し、欧米の元戦闘機パイロットをリクルートする体制を整えた。この動きは、中国が西側諸国の航空戦術を模倣・吸収することを狙ったものであり、従来の閉鎖的な訓練体制を脱する試みとして注目される。TFASAを通じて、中国の若手パイロットはNATO式の戦術思考やシミュレーション訓練法に触れることが可能になったとされる。

だが、この試みに対し、国際社会の警戒は急速に高まった。米国は、TFASAに参加した元海兵隊パイロットを告発。2023年には、Five Eyes諸国(米・英・豪・加・NZ)が共同声明を発表し、退役パイロットたちに対して「中国との関与は安全保障上の重大リスクを伴う」と警告を発した。これは単なる道義的非難ではなく、自国の軍事ノウハウが中国に流出し、中国空軍の戦術レベルが飛躍的に向上することへの懸念を示している。