北朝鮮では、来年初めに開催が予定されている第9回朝鮮労働党大会を前に、「金正恩革命思想」を正式に党規約へ明文化する可能性が注目されている。専門家によれば、これは金日成・金正日時代の「主体思想」と「先軍思想」を受け継ぎつつも、新たな独自イデオロギー体系として「金正恩時代」を確立する政治的ステップとなるという。加えて、金正恩総書記への「共和国大元帥」称号付与案も同時に議論されているとされる。

金日成・金正日とは異なる「金正恩時代」の独自イデオロギー構築へ

韓国・国家安保戦略研究院が開催した「2026年の朝鮮半島情勢展望」フォーラムに参加した梁茂珍(ヤン・ムジン)北韓大学院大学特任教授は、来年の第9回党大会で「金正恩革命思想」が正式に党規約へ明記される可能性を指摘した。梁教授によれば、金正恩総書記がこれまで強調してきた「我が国家第一主義」や「人民大衆第一主義」がその核心をなすとみられる。

これは、2021年の第8回党大会で掲げた「国政運営の正常化」や「核武力完成」路線の成果を踏まえ、次の段階として体制思想の体系化を目指す動きとみられる。党規約に「金正恩革命思想」が盛り込まれれば、今後の国策・宣伝・教育全般がこの思想を軸に構築され、北朝鮮社会の統制が一層強化される可能性が高い。

北朝鮮の歴代指導者はいずれも自らの思想体系を通じて体制の正統性を確立してきた。金日成は「主体思想」、金正日は「先軍思想」をそれぞれ体現し、国家理念として制度化した。これに対して金正恩は、先代の思想を継承しつつも、現代的かつ実務的な「我が国家第一主義」を旗印に、国民意識の再編を進めている。

その狙いは、国際的孤立や経済難が続く状況下で、体制への内部結束をより強固にすることにある。金正恩のリーダーシップを「独自の思想」に昇華させることで、金日成・金正日に続く「3代世襲体制」の持続的な正当化を図る意図が見えるといえる。

梁教授はさらに、第9回党大会では金正恩総書記に「共和国大元帥」の称号を正式に授与する可能性もあると述べた。この称号は、1953年に金日成が軍元帥となり、1992年に「共和国大元帥」に昇格した際以来、北朝鮮で最高の軍・国家統帥資格を意味する称号である。金正恩に同様の称号を与えることは、国家元首としての象徴的権威を完成させることを意味する。

実際、2022年の朝鮮人民革命軍創建90周年の閲兵式では、金総書記が「大元帥」に似た階級章を着用して登壇したことが確認されている。この際、正式発表はなかったものの、今党大会での称号付与が現実味を帯びつつあるとの見方が強い。称号付与と同時に、国家機構の再編や「国家主席」職の新設といった制度改編の可能性も指摘されている。

梁教授は、北朝鮮が第9回党大会を通じて、金正恩の指導を絶対的な政治思想へ格上げすることで体制の安定化を図ると分析する。思想の明文化は、指導者個人への忠誠と国家運営の方向性を一致させる効果を持ち、経済難や外交的孤立といった外部の圧力を内部の統一で乗り切ろうとする戦略だと考えられる。

また、金正恩体制は最近、幹部への忠誠教育と青年層の思想統制を強化しており、これは党大会後の主要路線になる可能性が高い。専門家らは、こうした動きが内部秩序を維持する一方で、個人崇拝の深化と社会統制の拡大につながることを懸念している。

韓国向け「敵対的二国家政策」も制度化、対南戦略の転換点に

北朝鮮では近年、「反動思想文化排撃法」「青年教養保障法」「平壌文化語保護法」などの“三大統制法”が相次いで制定された。これらの法律は、外部文化や外国情報の流入を厳しく取り締まり、思想の純粋性を守るという名目で個人生活の細部にまで干渉する内容を含む。梁教授は、第9回党大会後にこれらの法律の運用がさらに強化されると指摘している。

思想統制の徹底は、党の指導原理である「一心団結」を実現するためとされるが、同時に社会的自由を大幅に制限する結果を招く可能性が高い。これにより、内部不満を抑制し体制の一枚岩化を進める一方、文化的交流や若年層の価値観の多様化がさらに阻まれる懸念が強まっている。

梁教授は、北朝鮮が韓国を「同胞」ではなく「敵対的な別国家」として扱う路線を今後さらに制度化する可能性にも言及した。金正恩政権は近年、南北関係を実質的に「二国家体制」と位置づけ、軍事・外交的に対抗関係を明確にしてきた。これは一時的な政治的反発ではなく、体制維持のための戦略的転換として定着しつつある。

彼はまた、金正恩がこの方針を覆すことは権威の損傷や内部混乱を招くと警告しており、第9回党大会での憲法改正や国家理念の再定義が今後の焦点となると述べた。北朝鮮の対南政策が制度的に固定化されれば、朝鮮半島情勢は緊張の新局面を迎える可能性が高い。

第9回党大会は、北朝鮮が「金正恩時代」の体制をどのように正式に定義づけ、内外政策を方向づけるかを示す重大な転換点になるとみられる。思想の明文化、称号の付与、体制法の強化といった一連の動きは、国家運営の安定化と権威の確立を目指すものだが、その一方で社会統制と南北関係の硬直化を深める懸念も伴っている。